うそつき村の悪霊(おとな)

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   しょうじき村の子どもは 決してうそはつかない。  うそつき村の子どもは うそしかつかない。 最初の子どもはこう言った。 「ぼくはうそつき村の子どもじゃないよ。」 ぽん、と我に変える。 なんだ?いまの。 こどものころの本かなにかでみた話。 すっかり忘れてたのに、なんでいま急に出てきたんだろう? !カーブだ…。 慌ててハンドルを切る。 ガードレールに少し擦った。 危ないな、ぼんやりして。 …危ない? そして大事なことを思い出す。 彼は死に場所を探していたのだった。 危ない、だなんて。 俺、ホンとに。 笑われるしかないよな。 独りで車を走らせていた。場所は実にどこでもよかった。 でも、 人気があまりなくて、できれば民家とかからも離れてて、それなら山道だけど混みかたや大型車の量から国道やバイパスは避けたいしとか次々ぐずぐず考える。 車を走らせながらでそうだ。 そんなんだから、なかなかよさげな場所にまで辿り着けない。辿り着ける理由がない。いつまで走っても辿り着けないのかもしれない。 せめていまぶつかってしまえてたら、一瞬で全て片付いてたかも。 思い返してももう遅い。 いつもそうだ。だからこうなってしまうんだ。 それなのに、スピードを少し落とした。 逆だ。ぶつかるならスピードは上げる、だろ。 でも落としてる。 事故はよくないかな、そう感じたのだ。 …なにやってる、俺。 だからダメなんだ。 いつもこれだ。心底俺は俺がキライだ。 けど路肩に置かれた花は、とてもとても哀しいから、あんな光景は残したくない。 …花なんて誰も置かないか。なら事故で構わないか。 スピードを落としたせいか、道脇の看板がよく見えた。 "しょうじきむら の みちのえき は こちら" そして矢印。 これか。 これで思い出したんだ。 昔々の子供向けのナゾトレ本だった気がする。 うそつき村の子どもは誰でしょう? そんなかんじの問題。 うそつき村の子ども。 うそしかつかない、うそつきの子ども。 もしうそつき村の子どもだったら…? うそばっかり、ついてついてついて、並べて並べて並べて、はじめから終わりまで嘘しかないそんな人生。 それなら、なにかは見つけられたのか。 やめよう。 路肩に車を止めた。 もうここでいい。 山道らしく片側は小さい小石が落ちてきそうな崖が昇ってて、もう片方は少し広めの路肩で、その向こうはよく見えない。雑木の木立と抜けて見えるのは、柵かな…。 でも、もうここでいい。 俺は愚図愚図する俺に、もう本当にうんざりなんだ。
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