1/1
前へ
/97ページ
次へ

森下駅前の大通りを抜けて路地に入ると、住宅街が広がっている。中層マンションが入り乱れる中で露木家は7階建のレンガ調のマンションの5階にあった。 玄関を開けて真っ直ぐ進んだ突き当たりのリビングは白を基調としたデザインで、主張しない家具が並んでいる。大型の液晶テレビの前に置かれたベージュ色のテーブルを挟むようにして座り、夕食が始まる。 「それで?学校の方はどうなの。」 露木真奈美はテーブルの中央に置かれた木のボウルからサラダを取り分けて萌華の前に置いた。母親譲りのしなやかな黒髪だと、萌華は親戚から褒められたことがあった。 「別に普通だよ。」 「まぁ普通が一番だよな。」 喉を鳴らして缶ビールを飲み、露木優吾は枝豆を手にしながら頷く。やがて一息つくと、すっかり薄くなった頭を撫でながら続ける。 「部活とか、委員会とか入ったのか。」 「部活は入ってない。福祉委員会には入ったよ。」 4月の末にクラスで行われた委員会を決める会議において、萌華は岡村と共に福祉委員会に入った。どんな仕事をやるのかは分からなかったが、どこか楽そうだから、という簡単な理由で2人は一致している。 萌華の隣で、露木美代は里芋の煮っころがしを箸で崩していた。70代後半にも関わらず白髪は羽毛のように柔らかく、いつも萌華に優しい。そんなふわりとした笑顔を萌華に向けると、美代は落ち着いた様子で言う。 「萌ちゃんは、優しいからねぇ。」 「そうか。福祉ね…何やるんだろうな。」 「あれじゃないかしら。エコキャップ運動、とか。よく高校生が駅前に立ってたりするでしょう。」 子供を差し置いて進んでいく家族の会話をBGMにしながら、萌華はテレビに映るバラエティー番組を眺めながらレタスを齧った。
/97ページ

最初のコメントを投稿しよう!

171人が本棚に入れています
本棚に追加