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桜の花が咲くまでの時間の中で、桜の花弁よりもたくさんの思い出が過ぎていく。それは決して散ることもなく頭の中で咲き誇ったままだった。
受験勉強の追い込みで忙しく中々デートを行えなくても、2人は1年C組の横を流れる廊下で話し合っていた。それはまるで卒業後に会う機会が減ってしまうことを寂しがるように、これから空いてしまうであろう穴を先に埋めるように、3月9日に訪れる高校生としての”さよなら”を誤魔化すように。
志望していた大学に合格することができた日には、2人だけでなく葛城と岡村も交えてカラオケに行った。まるでそれまでの鬱憤を晴らすようにはしゃいでいる中で、露木は何度も心から合格を喜んだ。
2月14日は2人きりで会うことができた。慣れない手作りチョコは母と祖母の助言を貰いながら完成させ、露木は疲れながらも渡すことができた。住吉駅から数分いったところにある水縹色のカフェ。不揃いなトリュフチョコを手に取って、彼は満面の笑みで頬張っていた。
その間も彼女の胸の中で様々な感情が次から次へと湧いていく。一条と過ごせる日々の嬉しさ、それが残り少ないという寂しさ、1年間学んできた知識を持ち合わせないといけない学年末テストへの焦燥感、しかしそのどれよりも勝っていたのは、3月9日の午後への期待だった。
学習机の前に置かれた卓上カレンダーには、赤い丸が記されている。ぐるりと囲まれた3月9日の真ん中で卒業式という字が刻まれていた。
その日行うと決めていた分の勉強を終えて椅子を鳴らす。机の端に置かれたグロスが目に入って、思わず手に取る。自分のためを思ってくれたプレゼント。夜10時過ぎであるため、これを塗るのは明日になる。そのせいか露木はそれを握ってクリスマスイブの夜を思い出した。
深いため息をつく。それに薄い桃色が滲んでいることを、彼女は分かっていた。
腰を浮かせてグレーのハーフパンツと藍色のショーツを脱ぐ。白い箱からティッシュを数枚取って下に敷き、開いた股の前に手鏡を置いた。いつ購入したのか覚えていない紫色のシェーバーを手に、あちこちに畝った陰毛を剃っていく。露木は元々体毛が極端に薄く、それほど濃いというわけでもなかった。
しかしセックスをするとなれば、ある程度の清潔感が必要となってくる。毛の処理は最低限のマナーであった。
秒針を刻む規則的な音に、毛が削がれていく不規則な音が混じる。なるべく考えないようにと心掛けていた彼女はその時にキラリと光る物を目にした。肌色の小陰唇の隙間から漏れる透明な粘液が、卓上のライトに照らされて輝く。下のティッシュに付着しないようにと人差し指の先でそれを掬い上げた。
「あっ…」
びくんと体が跳ね、思わず声が漏れる。頭の隅へ追いやっていても自然と残っていたセックスへの期待が輪郭を帯びていく。こんなことを考えてしまうのはおかしいのかもしれないと思いながらも、彼女の中指は粘液だらけの内壁へ潜り込んだ。
微かに水の混じる音が響く。膣口から生えているような指を見て、これが一条の陰茎であることを想像してしまう。この広い世界の中で自慰行為に耽っている女性は自分だけではないのかと不安に思ったが、内壁を悪戯に刺激する指の動きは止まらなかった。
「んっ、あ…いく…」
一度灯ってしまった欲望の松明を消すために、指の動きを加速させていく。絶頂のタイミングが掴めてきた彼女は、少し大きな吐息と共に全身を震わせた。
びくんと痙攣して腰が浮く。指をゆっくりと抜き、またティッシュを取り出して粘液を拭き取る。5日後に迫った卒業式の字を見つめながら露木は毛の処理を再開した。
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