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「安心したかったのかもね。」 病院を出てすぐ目の前に広がる大通りに立ち、青信号に変わるのを待っていた白河がふと呟く。車が行き交う度に足元を彷徨う春風が巻き起こって、3人を包み込んでいた。 「どういうこと?」 「多分、肯定も否定もされなかったんじゃないかな。自分の教育が間違っているかもしれないとは思っていても、相談相手がいないから何が正解なのか分からない。だから萌華ちゃんとああやって話し合って、誰かに答えを出して欲しかったんだと思う。だって辛いでしょ。10年以上自分の子供を嫌い続けるって。だから不安だったんだよ。自分の今までが誰にも肯定も否定もされないまま、終わってしまうのが。」 露木はぼんやりと考えていた。誰にも否定されず、肯定されずに生きていくのはどれほど辛いのか。誰かが介入すれば途中で止めることも出来ただろう。しかしそれを教えてくれる存在がいないというのは、計り知れない孤独の闇に首まで浸かっているようなものなのかもしれない。 答えを知ることなく人生の終わりを待つ。香織もまた、家族という複雑な問題における被害者なのかもしれないと露木は思った。 「でもさ、どうやって一条先輩のこと説得するの?」 青信号に切り替わり、3人は対岸へ歩き出す。岡村の何気ない一言に白河は同調するように言う。 「確かに。一条先輩からしたら、そんなの知らないわけだもんね。どうしたらいいのかな。」 横に広がった横断歩道を渡って住宅街に滑り込む。ぼんやりと駅の方へ歩きながら、露木は道沿いに停まる黒と緑の車の列を眺めていた。 「これしかないかな。」 思い出したように露木は立ち止まった。前の2人が不思議そうに振り返る。その表情を舐めるように見て彼女は携帯を取り出した。いつ交換したのかも覚えていない連絡先を探す。 「作戦会議しよ。」
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