料理の経験値と恋愛経験値もどっちも低い

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料理の経験値と恋愛経験値もどっちも低い

寛太が作りおきをしてくれていた叩ききゅうりとナスの揚げ浸し、いずみが茹でた素麺で姉妹は食卓を囲んだ。 いずみには社会人になってから友人と呼べる人はほぼいなく、その代わりに妹が友人のようであり、何でも相談できる存在である。 「今日ね、今朝言ってた上司と話をしに街中まで行ってきたんだけどさ。」 「うんうん、」 妹の口からはきゅうりのポリポリという小気味良い音が響く。 「困らせてしまってごめんなさい、って。忘れてください、って。」 「へ?良いやつ〜、かと思いきや、めんどくさいねぇ。」 面倒だ、と片付けた妹の言葉にいずみは深く頷き同意した。 「でもね、」 といずみは言い訳をするように口を開いた。 「なんかね、一概に面倒って一言でまとめられなくて。今日、仕事以外の話もしたんだけど楽しかったし、」 奈緒はにやにやした。 「なによ。」 素麺を食べる手を止めていずみは怪訝な顔で見つめ返す。 「いや、それって今までに無かった傾向じゃない?いずみちゃんが良いかも、って思うこと。」 「そんなことはないはず。だってさ、車屋さんのパチンコ好きのあの人だって最初はね…?」 「それはさぁ、いずみちゃんもなんか恋人欲しいな〜みたいな下心?があったときのことだからさ?今回はさ、ほら、まっさらな状態でのそれ。良い傾向としか言えないね。」 「でもねぇ。上司だしさ?」 「上司と結婚する人は警察にはいないの?」 「…いるよ?」 いずみの知ってる中で2組のカップルは上司と部下の関係で夫婦になっている。 「じゃあ良いじゃん?」 「でも、年下だよ?まだ向こうは22だよ、あれ?23か?ま、どっちでも良いんだけど、年下だよ?」 「年下はダメなの?」 はたと妹の問いにそうでもないことに気づく。 「ちょっと待って、これ以上焚き付けないで。明日も仕事で会う。上司として会う。それ以上でも以下でもない。」 少しムキになって反論した。 面倒くさい、妹の言葉を反芻する。仕事にこんな感情いらないのだと言い聞かせること自体おかしなことで、自分が浮かれてしまうのじゃないかと心配している時点でもう彼を意識していることが恋愛というものをまともにしてこなかった証拠だといずみは思った。恋愛経験値が高い人はこんな面倒くさいことをうまく消化してやってのけてるのだろうか。 「それよりさぁ、いずみちゃんはさ、素麺をうまく茹でて食卓に並べられるようにしたほうが良いかもねぇ。」 いずみが茹でた素麺は、ザルにあげられて水を切ったままで麺は取ろうとするとぶちぶち切れるし茹でるときにほぐすこともしなかったので所々結合していて、固まっているのでご希望の量は取れない。いずみは箸でつままれた麺と呼べない長さの物体を眺めた。 「そうかもね。」 料理の経験値と恋愛経験値もどっちも低いなぁ、と自嘲した。
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