プロローグ

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プロローグ

─── 一目惚れってあるんだって思った。 社会人二年目のまだまだひよっこな私、西尾芽生はメーカーで働く駆け出しのシステムエンジニアだ。自他共に認める仕事人間で、男性にまみれてガツガツ仕事をしている。 プログラムコードをバリバリ書くことは結構得意だ。大学でも専門で勉強してきたし、集中して何かに取り組むことは性に合っている気がする。 だけど仕事っていうのは好きなことだけをすればいいものではない。いくらプログラムが書けるからといってすべて内製で作るわけではなく、時には外注にも請け負ってもらう。仕様書を作成して打ち合わせをして発注へと繋げる。 この発注処理というのがなかなか難しく、調達部門の担当者へたびたび確認をしに行かなくてはいけない。 今日も請求書の支払遅延について下請法のことを聞きに調達部門まで足を運んだのだが……。 「はい、勉強し直し! この案件のどこが下請法違反なの? まったく問題ないわよ!」 ハキハキとものを言う曽我グループ長は、呆れながら一蹴する。 違反ではなかった安心感で胸をなで下ろすと共に、途端におとずれる羞恥心に私は顔を赤らめた。 勉強不足なのは重々承知だ。だけど下請法ってややこしくて難しいんだもん。だから恥を忍んで聞きに来たんだよう。 なんて心の中で悪態をつきつつ曽我さんからついと目をそらすと、曽我さんの斜め前に座る男性と目が合った。彼は私を見るとふっと口元を綻ばす。 「下請法難しいよね」 小さく呟かれると共に彼は柔らかく微笑んだ。
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