手を伸ばせば遥かな恋

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道路沿い、開成山公園に隣接して立派なお社が建っていた。 「大智くん、こなつさんお腹に赤ちゃんがいるの?」 「見れば分かるだろう。いちいち聞くな」 「こら、大智。瀬里くんに優しくしないと駄目でしょう。嫌われるよ」 「五月蝿いな」 大智くんが階段を一気に駆け上がって行った。ふっくらと膨らんだお腹を擦りながら一段一段ゆっくりと階段を登るこなつさんと井上さんのあとについて階段を登った。 「この開成山大神宮は開拓者の心の拠りどころとして建立されたんだよ」 広い境内はひんやりと涼しくて、何人かの参拝者がいるだけでとても静かだった。 平成3年の奉還115年祭事に青森ひばを使って建て替えられたこと。従来の流れ造りから念願の神明造様式で造りかえられたことなどをこなつさんが話してくれた。 大智くんは参拝もせずお守りを熱心に眺めていた。 「安産のお守りを買ってくれるの?」 「なんで俺が買わなきゃならないんだよ」 不貞腐れながらもお守りを買い求めていた。 「ほら、やる」 参拝を終え階段を下りて駐車場へ向かっていたら大智くんからお守りをぽんと渡された。 桜色の鮮やかなお守りには縁結御守と書かれてあった。 「え?あ、あの、大智くん」 驚いて顔を上げると、大智くんは雲ひとつない青空を見上げていた。 その後ろ姿が誰かに重なって見えた。 ーすず、一緒に逃げようー どこからか声が聞こえてきた。 その声は初めて聞く声なのにとても懐かしい声だった。
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