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手を伸ばせば遥かな恋
福岡県久留米市。
「瀬里またそれば見よっと?」
「お婆ちゃんは死ぬ前に一度でいいから福島に行きたいって言ってたのに……」
「こんご時世だもん。しょんなかよ」
開成山ん桜が今年も咲いた。毎年こん時期になると決まって絵葉書が届く。
差出し人は増谷フミという女性だ。住所は福島県郡山市久留米。同じ久留米という地名に不思議な縁を感じた。
お婆ちゃんの話だとご先祖さまは久留米藩士族。国の一大事業である安積開拓団の一員として刀を鍬に変え明治11年(1878年)12月、現在の福島県郡山市に家族と共に入植した。
今から143年前のことだ。
強固な団結を誇った久留米開墾社も、他の入植者同様、生活困窮は決して例外でなかった。ご先祖さまも7年あまりで生活の窮迫で家族を連れ郷里に帰った。でも長男だけはなぜかそのまま郡山に留まり、天寿を全うしたらしい。帰りを待つ家族がいたのにどうして郷里に戻らなかったのか、お婆ちゃんに聞いても教えてもらえなかった。
「姉しゃん何ん用?」
「あっ、そうやった。すっかり忘るるところやった。これ見て」
スマホの画面を見せられた。そこには、久留米市と姉妹都市を結ぶ郡山市で、高校生を対象に夏休みに行われる交換留学生を3人募集するという内容だった。
「募集定員はたった3人ばい」
「いかんもとで応募すりゃよかやろう」
「作文は苦手だばってん、お婆ちゃんの為なら」
こぎゃんチャンスは二度となか。
迷うことなく応募することに決めた。
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