始まり

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始まり

肌を刺すような寒さで目が覚めた。 どうやら眠っている間に、暖房が消えてしまったようだ。今夜は特に冷える。最近では桜の花も咲き始め、暖かい日も多いと言うのに、雪でも降り出しそうなほどの寒さだ。 僕はカーテンの隙間から漏れる、月の光を頼りにサイドテーブルに置いたはずのリモコンを探すと、壁付けのエアコンに向けて、スイッチを操作した。去年買い替えたばかりのエアコンはすぐに暖かい空気を吹き出し始める。 喉が渇いたので、しばらく部屋が暖まるのを待って、ベッドから出ることにした。最近夜中に喉が渇いて目覚める事が多くなった気がする。全く覚えていないが、毎晩悪夢でも見ているのだろうか。 ベッドから出る。部屋は比較的暖かいが、フローリングの冷たい感触が足元から伝わってくる。目と鼻の先にある冷蔵庫を開けると、ドアポケットに飲み物の缶が並んでいる。が、その全てが喉を潤すものではなく、現実逃避の為に飲むアルコール類だった。冷蔵庫内の棚に横倒しになっているミネラルウォーターのペットボトルを見つけたので、蓋を取ってそのまま口に運んだ。 ふと、背後から視線を感じる。振り向くと、 "ナヒト"が月明かりに照らされて、その金の瞳で此方を見つめていた。 数ヶ月前、突然我が家に黒猫が迷い込んだ。何度か追い出したのだが、気がつくと戻ってきている為、諦めて飼うことにしたのだ。ナヒトという名は、僕が好きなファンタジー小説に出てくる、金の瞳に黒い長髪を不思議な結び方で後ろに束ねている少女から名付けた。 「ごめん、起こしちゃったか」 ナヒトはそっぽを向くと、そのまま自分のテリトリーである、ベッドの横へ戻っていった。サイドテーブルの時計は午前1時を示している。明日は遅くても5時には起きないと仕事に遅刻してしまうので、ナヒトに習って僕もベッドに戻った。 「おやすみ、ナヒト」 眠りの沼に沈む直前、ナヒトが「おやすみ、四葉」と返事をした気がした。
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