番外編③

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「…へぇ、」 夏希君が優しく手を離してくれた。 彼がしないことはわかっていた。 「なんでそう思うの?」 「…勘、かな」 「なんだよそれ」 はぁ、と盛大に大きな息を吐いて、いただきますと言ってからお粥を食べ始める。 彼も夏希君と同様に食べ方が綺麗だ。 ふと、レンゲスプーンを持つ手を止めた。 「もし、兄貴よりも先に俺が桜子と再会していたら…結果って変わってた?」 「結果?」 彼が何を言いたいのか理解した途端、胸を圧迫されるような痛みが襲う。 私は夏希君が初恋だった。 彼がいたから生きてこられたといっても過言ではないほど、助けられた。 もし、そんな彼と千秋さんよりも先に再会していたら…― 私は小さく笑って首をゆらゆらと振った。 「変わらなかったと思う。出会う順番が違っても―…私は千秋さんのことを好きになってたと思う」 「あっそう、だろうね」 彼が再度お粥をゆっくりと食べ始める。 どこか切なそうな目がお粥の入った土鍋を映していたが、もう一度私にそれが向けられると どこかすっきりしたような瞳に変わっていた。 「お幸せに」 「…うん、ありがとう」 私は立ち上がり、そのまま部屋を出た。 音を立てないようにそっとドアを閉め、振り返るとそこには千秋さんが立っていた。 すぐに千秋さんは、しっ!と人差し指で声を出さないように指示を出す。 頷きながら二人でそっとその場を離れる。
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