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「…へぇ、」
夏希君が優しく手を離してくれた。
彼がしないことはわかっていた。
「なんでそう思うの?」
「…勘、かな」
「なんだよそれ」
はぁ、と盛大に大きな息を吐いて、いただきますと言ってからお粥を食べ始める。
彼も夏希君と同様に食べ方が綺麗だ。
ふと、レンゲスプーンを持つ手を止めた。
「もし、兄貴よりも先に俺が桜子と再会していたら…結果って変わってた?」
「結果?」
彼が何を言いたいのか理解した途端、胸を圧迫されるような痛みが襲う。
私は夏希君が初恋だった。
彼がいたから生きてこられたといっても過言ではないほど、助けられた。
もし、そんな彼と千秋さんよりも先に再会していたら…―
私は小さく笑って首をゆらゆらと振った。
「変わらなかったと思う。出会う順番が違っても―…私は千秋さんのことを好きになってたと思う」
「あっそう、だろうね」
彼が再度お粥をゆっくりと食べ始める。
どこか切なそうな目がお粥の入った土鍋を映していたが、もう一度私にそれが向けられると
どこかすっきりしたような瞳に変わっていた。
「お幸せに」
「…うん、ありがとう」
私は立ち上がり、そのまま部屋を出た。
音を立てないようにそっとドアを閉め、振り返るとそこには千秋さんが立っていた。
すぐに千秋さんは、しっ!と人差し指で声を出さないように指示を出す。
頷きながら二人でそっとその場を離れる。
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