兆候

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「初耳です。行けなくなったんですか?」 「向こうの指定した日にどうしても外せない仕事が入っいて、別日にひとりで行くことになった。」 「わざわざ?」 「今回の案件は大きい。先方が俺のことを知ってくれていて、ぜひにと言われてるんだ。だから、ひとりでも行くことにした。」 「確かに、ひとりでは寂しいですね。」 これだよ、と青島は未来を恨めしそうに見た。 「お前と一緒に行きたかったに決まってるじゃないか。何で他の男と行くお前を、俺が見送るんだ。」 「だって、仕事。」 と言ってから、未来は吹き出してしまった。 「宏さん、かわいい。」 青島は、ますますぞんざいな態度になる。 「嘘でも残念そうにして見せろ。俺だけかっこ悪い。」 そんな青島の様子に、未来は少し反省しながら、なだめるように言った。 「ごめんなさい。ゴールデンウィークにでもどこかに行きましょう?正直、みんなの前で宏さんと一緒にいるって、心臓持ちません。」 青島は渋々、頷いた。 「今日の様子を見る限り、一緒に行ってもやきもきさせられそうだからな。俺が行く日に連れて行くことも考えたんだが、その日程で打ち合わせしないと間に合わないって言うから、諦めた。」 青島が、自分と一緒にいるために、あれこれと考えてくれていたことを知り、未来は嬉しいと思うと同時にまた自問する。 「すぐには難しいかもしれないけど、この状況に慣れるように頑張りますね。」 未来のその言葉に、青島は首を振った。 「頑張らなくていい。そう言わせたのは俺だけど、お前はお前のままで、隣にいてくれたらそれでいい。」 「宏さんは、いつもそう言いますよね。私、諦めちゃいそうですか?」 青島はそうじゃない、と未来を見つめた。 「お前の頑張るにゴールがないからだ。諦めて俺に寄り掛かってくれるなら、受け止められる。だけど感じなくてもいい罪悪感で、拒絶されるのは到底納得できない。」 未来は返す言葉を失った。 「図星か。」 青島の顔に、切なさが加わる。 「お前は、何か悩むと表情が硬くなる。考えてるとも煮詰まるとも違う。」 自分ですら迷っているのに、この(ひと)はそんな私を見逃してはくれないから、全てを委ねてしまいそうになる。 「未来?」 思わず立ち上がった未来は、名前を呼ばれて、ハッとして再び腰を下ろした。 「宏さんが気付いてくれるから、落ち込みそうになるのを止められる。でも見透かされているようで、少し怖くなります。」 はかない、目の前で微笑む未来を見て、青島は思った。 「怖いのは俺だよ。お前の強さが俺から離れて行く理由になりそうで、いつもどこか不安でいる。でも今初めて、消えてしまいそうで怖いと思った。」 未来は微笑んだまま、青島に言った。 「宏さんの所に私の居場所がある限り、どこにも行きません。」
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