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7時前の駅構内は、お世辞でも空いているとは言えなかった。
未来が待ち合わせ場所の改札口へ向かうと、デジタル広告を眺めている涼子を見つけた。
「おはようございます。」
涼子が振り向くと、笑顔の未来が立っていた。
「おはよう。元気そうだね。」
「何ですか、それ。」
未来はおかしそうに笑った。
皆が揃い、新幹線で移動する最中でも、変わった様子の見られない未来に、過保護な四十男の取り越し苦労か?と涼子は思った。
でも昨晩、電話をかけてきた青島の不安を煽るようなことを言ったのは、涼子自身だ。
悪戯にそう言ったのではなく、あの場所に何かしらあるような気がすると言った青島に、最初の会議の日に未来が資料をじっと眺めていたと話したのだ。
涼子が二人のことを聞いたときに、真っ先に心配したのは未来のことだった。
しかしいざ冷静になってみると、青島の歯痒さが手に取るように分かる。
この間は思わず貶める様なことを言ってしまったが、あれだけの男はそうそういないと涼子も認めている。
未来も十分にそれは分かっているはずなのだが、舞い上がる様子は一切ない。
涼子の中で、青島に対する同情と応援する気持ちが芽生えてきていた。
電話を切るときには、社長の代わりに見守ってあげる、と言った程だ。
未来と青島のことを考えているうちに、涼子はうとうとしてしまっていたらしい。
ふと目が覚めると、隣に座る未来の顔は窓の方に向けられていて見ることは出来なかったが、身を乗り出す様な姿勢でバッグをしっかり握りしめている様子から、起きていることは分かった。
「何か見えるの?」
涼子が声をかけると、未来は驚いて振り返った。
「起きたんですね。特別な物は何も。田んぼと山と川。どこにでもある風景です。」
そう話す未来の顔は、心なしか寂しそうに見えた。
「確かに。」
窓の外を見ながら、涼子は頷いた。
「あと10分くらいで最寄駅です。二人も起こしましょう。」
と未来に言われて、涼子は前の席で通路側に頭が飛び出そうになっている、和田の腕を叩いた。
ビクッと姿勢を正した和田が、隣の石原を起こすと、それぞれ降りるための準備を始めた。
2時間程の移動で、新幹線を降りた4人は思い思いに体をほぐしてから、改札を出た。
「山の方は、まだ冷んやりするな。」
と一番の年長者である石原が言って、バッグからコートを取り出して羽織っている。
和田によると、バス停に迎えが来ることになっているらしい。
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