兆候

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しばらく待っていると、車体に大きくブランド名が入ったマイクロバスが止まり、ドアが開いた。 「こんにちは。お待たせしましたね。」 だいぶ頭の薄くなった愛嬌たっぷりの男性ドライバーが、これまた愛嬌のあるイントネーションで4人を出迎えてくれた。 バスの中では、自然豊かなこの地域の案内や、これから向かう施設の案内、ブランドコンセプトなどのアナウンスが流れている。 駅から15分程登ってきた広大な高原の上に、その施設はあった。 営業所や工場の他に、ショップやキャンプ場などを併設した関連施設があると、事前に配布された資料に書いてあった。 4人はまず営業所に入り、広報担当者の緒方と挨拶を交わした。 それから一般客が入る前のレストランで、まずは昼食に発売前の炊飯鍋で炊いた白米と、その他の方法で炊いた白米を食べ比べてみて下さい、とチェックシートを渡されたのだ。 「このような方法だと緊張されると思いますが、好きだと思ったご飯を私共に教えて下さい。チェックシートは単なるメモ用紙です。」 緒方の説明が終わり、レストランへの移動中、涼子が未来に耳打ちした。 「明日までに、どれだけの米を食べさせられるかな。太りそうだ。」 本当に、と未来は笑った。 案内されたレストランの個室の大きな窓からは、一面に高原の緑が広がっていた。 そしてテーブルには、たくさんの小皿が並べられていて、一人前づつ様々な料理が盛り付けられている。 「凄い。」 未来たちは口々に言って、席に着いた。 「これから3種類の方法で炊いた、同じ銘柄の白米を同じお茶碗でお出しします。それぞれ炊きたてと朝炊いてから常温で冷ましておいたご飯です。」 緒方が説明した通りに、トレイに載せられた6つのお茶碗が未来たちの前に置かれた。 「お味見程度の量ですので、足りなければ遠慮なくお代わりされて下さい。」 そこまで言って、私がいると緊張するでしょうからと緒方は退室した。 「利き酒みたいだな。」 思いの外、石原が楽しんでいる様子で、緊張感が漂っていたその場は、リラックスした空気に包まれた。
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