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兆候
「さすがに自信なくすな。」
涼子に言われた通り、未来を迎えに来た青島は、開口一番に言った。
「あんなに心配していたなんて私も驚いたけど、私も涼子さんの立場なら、同じだったかな。」
未来の言葉に、青島はため息をついた。
「お前くらい、俺をフォローしろ。」
未来は、ふふっ笑って青島の顔を見た。
「ごめんなさい。でも涼子さん安心したそうですよ。ありがとうって言えるようになったんだって。」
「俺は、小学生か。」
中々腹の虫がおさまらない様子の青島を見て、未来は遠慮がちに口を開いた。
「恥ずかしかったけど、本当は嬉しかったです、よ。」
未来にそう言われて、ようやく青島の表情から険しさが消えた。
「俺も随分と浮かれているようだ。つき合っていると言ったことで、顕示欲と独占欲に拍車がかかったみたいだ。」
「何ですか?それ。」
「俺の腕の中に閉じ込めたまま、俺のものだと言って歩きたいってことだ。」
すると未来は、まるでホラー映画でも見ているような表情になった。
「そんなこと、絶対しないで下さい。」
予想を上回る未来の反応に、青島は内心、気落ちしながらも反論した。
「本当にするわけないだろう。そういう心境だと言ってるんだ。」
「だってやりかねない。今日だって、あそこで出てくるなんて思いもしませんでした。」
「すまなかったなっ。お前を庇ったつもりだったんだ。」
そう言って口をへの字にした青島に、未来は心の奥の方がキュッと鳴ったような気がして、黙り込んだ。
「ごめんなさい。私のこと想ってですよね。」
心の中を呟くような声は青島に届かず、聞き返された未来はごめんなさい、ともう一度謝ると、青島の横顔を見つめた。
この男の気持ちに、私は応えられているのかな、私の気持ちは、この男に伝わっているのかな、そんなことを思いながら。
青島の機嫌はマンションに帰って、夕食を食べる時になっても、悪いままだった。
「まだ怒ってるんですか?」
まるで腫れ物に触るように、未来は尋ねた。
青島からは、いや、と素っ気ない返事が返ってきただけで、その表情は変わらない。
「私のことを想ってしてくれたことに、嫌な顔してごめんなさい。でも会社だと思うと、恥ずかしかったんです。」
すると青島は盛大なため息をついた。
「違うんだよ。いやそれもそうなんだが、俺も行くはずだったんだ。」
えっ?と未来は聞き返した。
「オーベルジュ、俺もお前たちと一緒に行くはずだったんだ。」
二人とも仕事の件については、差し障りのない内容しか話さない。
今回の案件も、未来が詳細を聞いたのは、会議の席が初めてだった。
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