須藤、弥生と出会う

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須藤、弥生と出会う

須藤が弥生の存在を知ったのは 弥生がインターンの時だった。 ハンサムで引く手数多(あまた)だった須藤は ちょいちょい看護師や後輩医師を喰っていた。 そう、須藤はバイセクシャルである。 女の子の柔かい手触りが大好きだったが ちょっとストレスが溜まると 強引なセックスがしたくなり そんな時は、同性の相手を見つけて 激しく抱き潰すのが常であった。 勿論、職場に知られたくないので 同性の相手は、それ相応の場所で見つけ 「一夜限り」の約束で、と性交した。 須藤自身、結婚願望はまだ無く スタディな相手を作ったことも無い。 弥生は、とても目立つ子であった。 170センチはありそうな身長と 意志の強そうな大きな目が特徴で 「質問されるとドキドキする」 と同僚が言うので「何で?」と聞くと 「瞬き二回するんだよぉ・・可愛い目で」 などと言う。 (ほぉ・・・) 室伏弥生はとても優秀なインターンで 的確な質問と指摘が、先輩医師たちを ドギマギさせていた。 須藤は、己が身をその渦中に置かずに 弥生を観察し始めた。 (なるほど・・・ 真っ向から、あんな可愛い顔で聞かれたら そりゃ、ちょっとドキドキするよなぁ~) そう独り言(ひとりご)ちていると、突然「あの」と 須藤の前に立った張本人が声をかけて来た。 お?なんだなんだ?と興味津々の須藤が 「なぁに?」と優しく問いかけると 「小児科の須藤せんせい・・ですよね?」 と聞いてくる。 (なになに・・俺のこと知ってんの?) 「うん、そうだけど・・」 「せんせいって、誰とでも寝るってホントですか?」 突然の問いに、須藤も周りの医師や看護師もビックリした。 カンファレンス中に、しかも単なるインターン風情が こんな下世話な質問をしてくるなんて・・と カーっと頭に血が上った須藤は、冷たく言い放った。 「キミねぇ、どうかしてるよ? 医療の現場でそんな質問するのはどうかと思うし どだい、僕はそれに答える義務は無いからね」 須藤の特徴の一つ「怒ると冷徹になる」が 炸裂しそうで、周りの者誰もが一歩引く。 弥生は「はっ!」と周りを見渡し 「し・失礼しましたっ!」と頭を下げた。 「キミ、社会性ゼロ、だね」 「・・すみません」 教授が「室伏くん、何にでも興味があって面白いね」 などと笑って流してくれたから良い様なものの 本来ならば厳重注意、勤務先は「他を当たれ」と なるところである。 「教授、甘いですよ」と須藤が言うと 「まぁまぁ、この子ちょっと変わってるからね。 でも、次は無いよ?」と教授が「笑わずの目」で言う。 カンファレンスが終わり、三々五々散っていくのを 確かめた須藤は、弥生に「ちょっと」と声をかけた。 少し離れた人気のないところまで行くと 須藤は腕組みをしながら弥生に詰め寄った。 「キミ、どういうつもり?」 「あ、すみません、失礼しました。 みんなが噂しているのを聞いたので・・ 私、疑問に思ったら腹に溜めておけない性質(たち)で ・・ホント・・ごめんなさい」 「だからって・・・」 「だって、須藤せんせい、スゴイ優秀で 教授たちからも一目置かれてて・・・ 患者さんたちからも慕われてるし」 「なに?今度は褒め殺し??」 「いえ、もし噂が本当なら、だなって・・」 「アハハハッ!!」 「すみません・・」 「いや、良いよ。キミ面白いね」 須藤に対し「グズ」などという単語を 口にした者は、今まで誰もいなかった。 だからか、須藤は「面白い」と思ったのだ。
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