須藤の兄たち、哲平と対面す

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須藤の兄たち、哲平と対面す

退院間近になった或る日、須藤の兄たちが病院にやってきた。 次兄は、哲平を見るなり「あっ!」と言い 哲平も「お久しぶりです」と挨拶した所を見ると どうやら、二人は顔見知りのようである。 須藤が来ると、兄たちは小走りに近付き ごく自然に須藤を挟むように立った。 哲平は、この兄二人がずっと末の弟の両脇を固めて 大事に守ってきたのだろう、と理解し胸が熱くなった。 哲平とパートナーになることを両親に報告してから 須藤と家族の関係はかなり気まずいものになり それ以来、二人の間で須藤家の話題はタブーになった。 だから、この様子を見て哲平は胸の(つか)えが降りたのだ。 そんなことを考えていた哲平に、長兄がツカツカと近付き 「はじめまして」と言いながら手を差し出した。 腹に響くような低音に圧倒された哲平は 自分とほぼ同じ目線で微笑む長兄の手を握った 「こちらこそ、ご挨拶が遅れて申し訳ありません。 今野哲平と申します」 遅れて、次兄と須藤も傍までやって来た。 「大智の相手って哲平くんだったんだ」 と次兄が言い、哲平の頭をクシャッと撫でた。 「知り合い?」と須藤が次兄に聞く。 「うん、この子が高校生の時から・・かな? 変わらないねぇ~~」 「そうなのか」と長兄が哲平をジッと見た。 「後でちゃんと説明するから、兄貴・・そんなに見るなって」 「啓二さんには色々お世話になりました」 「色々・・・」須藤が察した様子で次兄を睨む。 「いやいや、大智・・誤解すんなって!」 「どう言う誤解?」と次兄に詰め寄る須藤。 「たいち、俺がマイノリティで悩んでたこと話しただろ?」 「うん」 「啓二さんとは、そういう店で知り合って、相談に乗ってもらったんだ」 「あの店か?」と長兄が次兄に問う。 「うん」 「お前、高校生って未成年だぞ?」 「だから、何もないってば!あそこは別に未成年禁止の店じゃないだろ? この子にお酒飲ませたりして無いし、その先も何も無いって」 「そうか、なら良いが」 哲平は、長兄の言動から警察関係者か?と緊張した。 そんな哲平の緊張を察してか、次兄が耳元で囁いた。 「あ、大丈夫。兄貴はあの店の伝説なんだ」 「えっ?」 「おい」 哲平は、恐る恐る長兄の顔を見た。 次兄の言う「あの店」とは、ゲイの集まるバーで 高校生になった頃に自分の性的指向に気付いた哲平が ちょっとした好奇心から(のぞ)いた店の一つである。 表向きは普通のゲイバーだが、店主二人が店の裏で もう一つ、SM愛好者のクラブを経営している。 クラブは、店主二人が認めたメンバーしか利用できず 「伝説」と呼ばれるからには、それなりなのだろう と、哲平は畏怖の念で長兄を見つめた。 「あぁもう・・」と長兄は頭をガシガシと掻き 「啓二、その話は止めろ」と次兄を睨みつけた。 「あっと、こんなところでする話じゃないね? 哲平くん、今度お宅にお邪魔しても良いかな?」 「はい、是非」 「実はさ、ちょっと前に一回お邪魔してるんだよ」 「え?そうなんですか?」 「コイツが、子どものことで悩んでて相談したいって、さ」 「そうなの?」と哲平が聞くと、須藤が頷いた。 「拓也くんと呑んだ後ね・・黙っててゴメン」 「いや、別に良いよ」 「大智はさ、自分だけ結論出せないから焦れてたんだ」 「いや、俺は彼がお兄さんたちとは絶縁してなかったのが 嬉しいんで、気にしないでください」 やり取りをジッと見守っていた長兄が、哲平に微笑みかけ 「哲平くん、大智を宜しく頼む」と軽く頭を下げた。 「あ、はい。勿論です!」と恐縮して哲平が言う。 「しっかし、またデカくなったね。190位?」 「はい、191です」 「兄貴よりちょっと大きいねぇ」 「あぁ、そうだな」 哲平は、長兄に見惚れていた。 きっと40は超えている筈なのに、衰えていない体躯が服の上からも分かる。 しかも、とても精悍な顔つきが、まるで映画スターのようにも見える。 「何かな?」 「いえ、お兄さんカッコいいと思って、つい見惚れました」 「アハハ!相変わらず素直で可愛いよ、君は」 「じゃ、この辺で失礼する。ママと赤ちゃんには又今度」 良い機会だと、弟とそのパートナーには会いに来たものの 弟の病院内での立場や、今回の出生についての事情を鑑み 兄たちは、弥生と子どもたちには会わないと決めていたのだ。 「はい、お会いできて嬉しかったです」
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