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そして・・・
室伏と今野の家は・・・
親族総動員で、上へ下への大騒ぎになっていた。
一つは、双子の命名である。
A4用紙イッパイに、候補名が挙がり
皆があぁでもないこうでもないと議論する中・・・
仕事から帰って来た須藤の鶴の一声が一堂を黙らせた。
真新しいA4用紙にサラサラと文字を書いて持ち上げ
「名前は『平』と『智』にします」と言ったのである。
涼しい顔で「どうですか?」と言う須藤の圧に
反論出来る者など一人もいなかった。
二つ目は、これからの生活の拠点についてであった。
今野夫妻は、哲大誕生の折に家を広めに改築し
孫たちの面倒を、一手に引き受ける覚悟だった。
嫁の雛子も、それを手伝うつもりだと言って聞かなかった。
これについては、今野夫妻が中々承諾しなかった。
何故なら、雛子は聡明で弁も起ち、外に出せば
必ずや成功する人材だと思わせる女性だからだ。
夫の拓也も同意見だったが、雛子は譲らなかった。
夫妻も拓也も、雛子の性格を分っていたから
渋々ではあったが彼女の言い分を尊重することにした。
そんなこんなで、ソフト部分は充実したが
ハード部分に難ありだったこの問題に
設計図を携えた「冴子」が割って入った。
言わずと知れた、亡き雅哉の母でプチ雅の祖母である。
冴子は夫亡きあと、いくつもの不動産を管理経営し
地元ではヤリ手マダムと評される人物である。
「さて」と設計図を広げた冴子が語り始める。
「ウチの敷地、公園が作れる位広いってご存じよね?」
親族一同は、設計図を見て感嘆の声を上げた。
それは、三階建てのメゾネットタイプのマンションを
冴子の自宅敷地内に建てる、という構想の設計図だった。
「室伏さんと考えたのよ」と冴子がニッコリ笑った。
(室伏の父は建築家である)
一階はワンフロアの保育スペースで
トイレが三つとバスルームとキッチン
ベッドルームも完備されている。
「便器は子ども用が二つと大人用が一つ、シャワーは二口よ
ベッドは・・考え中。キングサイズ一つに雑魚寝か・・二段ベッドか」
二階と三階は、それぞれの居住スペースだ。
裏手にある玄関は一つだが、かなり広く
入ると直ぐにエレベーターが二基見える。
「エレベーターは、玄関と保育室の両方から乗れるの」
二階のリビング部分と三階のテラスから
お互いの家を行き来できる仕組みになっていた。
「すご・・」と雛子が目をキラキラさせた。
「ちょっと、水回りが多いから、水道光熱費が掛かるけど
みんな高給取りだから大丈夫よね?」
この件に関して、須藤と哲平は完全に「カヤの外」だった。
「哲平くん、どう?」
「いやいや、俺たちは金だけ出しますって!」
それにドッと笑い声が起こる。
「だよね?兄貴のとこ男親二人だから」
「うん、仕事の間はお任せする外無いですから・・。
でも、ステキな設計ですねぇ、これ」
と、腕組みをした須藤が言った。
「でしょう?室伏さん、私の希望全部取り入れてくれたのよ」
「希望ですか?」
「そう、先ず子どもが多いから、広い場所を確保して
おトイレもお風呂も子ども用にして、お昼寝は別空間でって」
「うんうん、おばさまステキ!」
「それとね、何があっても助け合えるように
お互いの家を行き来できるようにしたんだけど・・
これってパーソナルって意味からすると、マズいかしら?」
「いえ、俺はここが一番気に入りました。万が一が
本当にあるって・・、俺知ってますから」
「拓也くん・・・」
「これって、太陽光発電ですか?」
「あぁ、そうなの。ちょっとまだ試作品なんだけど」
「ひょっとして・・・」
「そうです、雅哉と俺が考えたヤツです」
「製品化したのか?」
「いや、まだ研究室で試行錯誤中だ。これ試作品だから・・
不具合でたら、直ぐに言ってくださいね?」
「えぇ、分った」
「これ、予算概算出てます?」
「室伏さんが、今計算してくれてますからもう少し待ってください」
「親父は一銭も出すなよ?これは俺と拓也で何とかする」
「あら、今日は提案だけって思ったのに、もう決定で良いのかしら?」
「勿論ですよ!」とそこかしこで声が上がった。
破顔した冴子は、詳細については皆で詰めていこうと言った。
「えっと、俺一つ提案が・・・」
「なぁに?」
「バスルームとですねぇ・・」
「哲平っ!!」
この後、哲平のたっての希望でバスルームとトイレは
行き来できるようにドアが付けられることになった。
「たいちさん、俺もほら浴槽で「もよおす」派ですから・・
そんなに怒らないでやってください、ね?」
可愛い弟が、澄んだ真っ直ぐの瞳でそう言うから
仕方なく哲平を叱るのを止めた須藤であった。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
それから・・・
冴子は、亡くなるまで寂しい思いをすることはなかった。
どうしてって、隣に住む孫たちが休む間を与えてくれなかったから。
雅哉と拓也から始まった物語は、ここで終わるが
その子どもたちの物語は・・また別の機会に!
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