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とりのい 壱
8月某日、とある山。
何故万年運動不足のサラリーマンが身の程知らずにも登山と書いて塗炭の苦行に挑んだのか。
思えばその時点でなんらかの超常的な力が働いていたのかもしれないしいないのかもしれない。
「俺としたことが、肺活量のスペックを過信していた……」
そこは夏休みに入った地元の子供たちがカブトムシやクワガタを獲りにくるような、むしろ小高い丘と形容した方がしっくりくる規模の裏山で、行き倒れの危険性はないように思えた。
実際途中までは順調だった。
ヘッドホンから流れるアニソンを鼻歌でなぞりがてら斑に落ちる木漏れ日も美しい爽やかな涼気に満ちた山道を歩んでいたら、やがて密に枝葉が茂り出して視界が翳り狭隘な獣道に迷い込んでいた。
引き返そうと思い立ったが、いやここで引き返すのも逃げ帰るみたいで癪だ、この道を抜ければ正規ルートに合流するんじゃないか儚い期待というか根拠のない楽観を捨てきれず歩き通した。
ようするに不毛すぎる自分との戦いに負けた。
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