8人が本棚に入れています
本棚に追加
とりのい 弐
「似合わないことするんじゃなかった……」
首尾よく出張を終えた帰り道、自然に恵まれた田舎にきたのに直帰するのももったいないと、ほんの出来心でちょっぴり欲をだしてしまった。
俺にも子供時代近所の川や山で遊んだ懐かしい思い出がある。
成人してからこっち日常に忙殺され童心を顧みる余裕とてなかったが、仕事で田舎に足を伸ばした際に、蝉の鳴き声がのどかに響く田園風景に郷愁を感じて、長らく忘れていた冒険心が騒ぎだしてしまった。
男の子はみんな探検が大好きなのだ。
もっとも今じゃすっかりRPGにシフトしてしまったが、きっかけと少しの資金さえあれば、道端の木の棒を拾って旅に出る準備はできている。
一皮剥けたと言わせたいみみっちいプライド、いやせめて皮膚の薄皮は剥けたと言わしめたい男の意地が、俺を夏の山へと駆り立てた。
インドア人間がきまぐれ起こして無茶をするからと笑われたくなくて、なかばむきになっていたのは認める。
とうに成人済みの男がこの規模の山で迷子になるなんてそんな、アイデンティティクライシスすぎて自分だって信じたくない。
うねりくるった獣道のはてにぽっかり拓けた空間にでた。
「なんだここ……」
マップと照合して現在位置を確認しようとスマホを見る。
アンテナが立たない。
まさかの圏外表示に愕然。
「死ねと?」
社会人にとってスマホは生命線なのに断ち切られては死ぬしかない。
萌えキャラのラバストを鈴なりにさげたスマホを翳し、なんとか心を落ち着けようと奇妙な空間に視線を巡らす。
不思議な場所だった。
目の前に鳥居がある。
どうやら俺が迷い込んだ獣道は、山の中腹に造られた神社の参道へ通じていたらしい。
神主は不在らしくお世辞にも管理が行き届いてるとはいえない。鬱蒼と草生した境内には人けがなく荒廃した気配が漂っている。
最初のコメントを投稿しよう!