お母さん

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 その時、女性が目を覚ました。彼女はぼんやりと私を見つめている。意識の混濁は無い様だ。 「……ここは?」 「帝国医大病院です。貴女は肺塞栓で公園に倒れていたんです」 「そうですか……。助けて頂いたのですね。ありがとうございます。少しベッドを起こして頂けますか?」  私は頷くと、彼女のベッドを電動で動かした。 「このくらいで良いですか?」 「はい、どうも。貴女はお医者様ですか?」 「はい、主治医の高橋です」  私の説明に女性が少しだけ驚いた様に私を見つめたが、ゆっくりと首を左右に振った。 「陽毬さんとおっしゃるんですね。私の娘も陽毬って名前ですよ。偶然ですね。でも先生、私、無一文ですし、保険にも入っていないので、入院費のお支払いが出来ません。あとで働いてお返しするしかありませんが、それで宜しいですか?」  私はゆっくり首を左右に振った。 「お支払いの必要はありません……。私が払いますから。お母さん……」  そう言いながら、私は二つの指輪を彼女に手渡した。 「えっ?」  彼女は驚いた様にその指輪を見つめている。そして内側の刻印を見て完全に理解した様だ。 「こっちは圭司さんの指輪だわ。貴女……陽毬……なの……」  私は大きく頷いた。 「うん。お母さん、陽毬よ」 「ああ、陽毬。心臓移植は成功したのね……。そしてこんな立派なお医者様になってるなんて……」  彼女の顔は涙で一杯だ。私も泣きながら初めて母を抱きしめた。 「お母さん、私の命を助けてくれて、本当にありがとう」  私の肩の上で母が泣きながら何度も頷いていた。
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