トンネルから

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* 「──廃品回収車です……ご不要になりました……」  外で廃品回収車が走っているようだ。日中によく聴くそれを耳にすると、否応無く学校に行っていない現実が突きつけられる。  ため息をついたとき、ピロン、とスマホが鳴った。通知が一件。送り主を見ると一瞬時間が止まった。航太くんからだ。慌ててロックを解除した。  航太くんと話したあの日の夜、ようやくお母さんに話すことができた。  お母さんは驚いていたけれど『なんとかするから学校に行かなくていい』と言ってくれたので、ここ一週間航太くんに会うことはなかったのだ。  学校に行かなくなって、少し重石は取れたけれど、ただ彼に会えないのが心残りだった。 『紗奈ちゃん、久しぶり。航太です。もし良かったら今度会いませんか?』 『久しぶりです。大丈夫だよ。』 『良かった。細かい場所はまたあとで連絡するね。あー、古文やだなぁ笑』 『次、古文の授業なの?』 『うん。じゃあ、また』  手を振っているスタンプが可愛らしくてクスッと笑いながらスマホを閉じた。  三時を少し過ぎた頃、再び連絡が来たので少し計画を煮詰め、今週の日曜日に会うことになった。  *  K駅で少し落ち着かない気持ちで周囲を見渡す。私たちがいつも会う一つ前の駅で待ち合わせることにしていた。  この駅は地上にあるので、考えてみればトンネル内以外で会うのは初めてだ。  水色のふんわりとしたスカートに、白いブラウスという無難な組み合わせだ。それでも、すこし洒落た格好で外に出るのは久しぶりだ。  茶色の腕時計に目を落とすと、まだ約束の二十分も前だった。 「紗奈ちゃん、ごめん待った?」    咄嗟に振り返ると少し髪が乱れた航太くんの姿があった。  久々に会う彼の姿に胸が詰まる。シンプルで少し大きめの薄手の白のトレーナーとジーパンは彼のスタイルの良さを強調していた。 「ううん、さっき来たところだし……早くついちゃった」  私だけが張り切っているみたいで恥ずかしい、と肩を竦めた。 「お互いに早く着いたね。俺も紗奈ちゃんに会うのが楽しみで」  サラッと告げられ思わず顔が火照ってしまった。 「わ、私も」 「よかった! 張り切ってるの俺だけかと思った。ね、おすすめのカフェあるから行こうか」  くしゃり、と無邪気な笑みを浮かべる航太くんが可愛らしくコクコクとうなずいた。
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