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翌日、今日も今日とていいアイデアが浮かばない博士は、もはや日課になりつつある昼寝を満喫していた。そこへ昨日の青年が青い顔をして駆けてきた。
「や、博士。えらいことになりました。助けてください」
寝ている博士を強引にゆり起こす。博士が夢のなかから戻ってくる。
「なんだ、ひとが気持ちよく寝ているところを」
「そんな悠長に寝ている場合ではありませんよ。結婚を申しこまれた話をしたでしょう。昨日の夜、断りに行ったのですがとんでもないことになってしまいました」
「そんなはずはないだろう。きみはわたしから薬をもらって自信満々だったではないか」
「それが、ああ、なんてことだ」
青年が両手で顔を覆った。
「昨日の夜、わたしは薬を飲んで相手の女性と会ったのです。もちろん、上手に断るつもりでした」
「うまくいかなかったのか」
「うまくいくとかいかないとか、そのような次元ではないですよ」
青年が嘆きながら昨夜のできごとを語る。
「わたしが彼女に会うなり、彼女は言いました。わたしの話考えてくださったかしらと。その言葉にわたしの口からどんなセリフが飛びだしたと思います。わたしはすばらしい申し出を受けました。あなたのようなうつくしい女性といっしょになれるなど、人生でこれ以上の幸福はありません。どうかわたしのほうから言わせてください。あなたと結婚したいのです。これがわたしの口から出た言葉ですよ。信じられないでしょう」
青年が首をふり乱す。どうにかして現実から逃げだしたいようだ。博士は眠い目でその様子を眺めていた。
「なんで、わざわざそんなことを言ったのかね」
「なぜ、あなたはいつも他人ごとなのです。あなたのよこしたうそつきの薬のせいですよ。そのせいでわたしは心にもないことを口にしてしまいました」
「それはとんだ災難だったな」
「どう責任を取ってくれるのです」
「どうといわれても。取りようがないだろう。あの薬はうそをつく薬であって、頼まれごとをたくみに断る薬ではないのだ」
博士がみっともなくすがりつく青年をふり払う。
「そんな。わたしはこれからどうすればいいのです」
膝をついて床に倒れこむ青年に博士が言った。
「正直に話すしかあるまい。はじめからそうしていればよかったのだ」
〈了〉
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