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あなたに初めて会ったのは、私が大学一年生の時。
そしてあなたは、四年生だった。
学校からの帰り道、いつも歩く坂道を上がっていた時、駅前で買ったりんごが、抱えていた紙袋からこぼれ落ちて、ころころと転がってしまった。
その時だった。あなたが現れたのは。
あなたは笑って、二、三個転がったりんごを、手で受け止めてくれた。
東京や、横浜には坂道が多いのよね。
あなたは、背が高く、色白でとても爽やかだった。
大学の学生服を着ていて、腕に、大学の名前が刺繍してあった。
手の甲に、たこ、のような物ができていて、私はすぐに、空手部の人だと分かった。
小さな頃、住んでいた川崎の下町に、空手部の大学生の、素敵なお兄ちゃんがいたから。
あなたは、やっぱり笑って、転がったりんごを、私が持っている紙袋の中に入れてくれた。
その時、私は、あなたの靴の片方を、少し踏んでしまったわね。
私は、[すみません] そう言って、バッグの中から、小さなティッシュを取り出して、あなたの靴を拭いた。
立ち上がった時、私は、あなたの瞳をじっと見つめた。
あなたの瞳は、黒くて、大きくて、澄んでいた。
あなたも、私の瞳を、吸い込むように見つめた。
【この人は、狡くない】
私は、そう思った。
それから、私は、恥ずかしくて、目を伏せた。
そして、私の顔といい、腕といい、首といい、真っ赤になってしまった。
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