カンダタの糸は深海に堕ちて

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「動作不能ですって……? 何処が何の異常を起こしたの?」  冷静に。努めて冷静に。  こういう時、もっとも大事な事は頭を冷静に保つことだ。特に、私はこのプロジェクトの最高責任者なのだから。 「潜航制御装置の異常です!」  モニターを確認するエンジニアの声が震えている。  『かいこう12000』では、各システムごとに別立ての制御システムが機能する仕組みになっている。だから、ひとつの異常が他のシステムに影響する事はないが……。 「こ、このままだと再浮上が出来なくなる可能性が……!」  大深度へ潜航する深海探査艇の場合、バラストと呼ばれる(おもり)を使って潜航し、浮上する時はその錘を切り離すことで再浮上を行っている。  その制御が不能に陥れば、永遠に帰ってこられない。  ……落ち着いて。ここは落ち着いて対応しないと。ひとつの判断ミスが取り返しのつかない事態を招いてしまう。  ドキドキと煽る心臓をどうにかなだめ、足元を踏みしめ直す。 「こっちからシステムを再起動出来る? 困った時は再起動が原則でしょ?」  ここは、踏ん張りところ。 「は、はい……今やっていますが……」  カタカタとキーを走らせる音が静まり返るキャビンに響く。  大丈夫。きっと大丈夫。問題ないはず……。 「ダメ……です。起動しません。恐らくは、電源系の何かのトラブルかと」 「何てこった!」  飯島が後ろで頭を抱えている。 「充分に耐圧テストを繰り返したはずなのに……」  『かいこう12000』は、前任の『かいこう6500』が老朽化したのを受けて作られた後継機。その開発に飯島は深く関わってきたから当然か。 「飯島さん、今はそんな事を言っている場合ではありません。それより、この状況をリカバリーする方法を考えなくては。何しろ、優先事項(プライオリティ)は2人の人命を守る事ですから」  ぐっ……と拳を深く握りしめ、震える指で再びマイクをオンにする。  逃げ出したくなるほどの気持を、抑えながら。 「リョウジ、聞こえる? そっちの状況はどう?」   《ああ、キョウコ。とりあえず、他に異常を起こしたユニットはない。通信も安定している。今のところ、僕たち二人は大丈夫だよ》  落ち着こうと、刻むような声。 「ココナさん……じゃなくて斎藤さんも?」 《わ、私なら、大丈夫です》  若い女性の声が返ってきた。必死になって動揺を抑えているのだろう。可哀想に。支援船の上ですらパニックになりそうなのに。 「そう……何とかこっちで対応策を考えるから待っててね。大丈夫、必ず何とかするから」  そう励まして、マイクはそのままに。   ……ねぇ、リョウジ。あなたはココナさんのそういう気丈なところが気に入ったの? それとも単に彼女が若くて可愛くてなびいてくれたから? 
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