カンダタの糸は深海に堕ちて

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 『かいこう6500』は、その偉業を称えるために海洋博物館に展示されている。を、どうにか緊急で再整備して投入しなくてはならない。他に、深海の闇に沈む二人を助ける方法は残っていないのだから。 「急げ! すぐに整備ドッグを準備しろ! 探査艇の不具合はメーカー責任……これは我が金剛電機の威信に関わる緊急事態だぞ!」  飯島が衛星電話で大声を張っている。普段、船の上では見せないような迫力。  しかし、問題はそれだけではない。 「機体の準備は任せるとしても、どうにかして『かいこう6500』を運搬する手立てを立てないとね……」  何しろ相手は深海探査艇。旅行に持っていくスーツケースとは訳が違うのだ。  ……ねぇリョウジ。前に言ったよね。私が深海を目指し始めた理由。『ヨコズナイワシ』って魚が発見されたからだって。  この現代になってまで、体長1.5メートルを超える巨大魚が『新発見』されるなんて本当に驚いたわ。深海にはまだまだ私達の知らない世界が眠っている……そう思ったら、成り立て魚学者の魂が黙ってなかった。  そして、同じ『深海』を相手する地震学者のあなたと出逢ったのよね。あなたはとてもカッコよくって、とても優しくて。  暗闇続きの人生に救い糸が舞い降りた……そんな気分だったっけ。 「そう、重量屋さんを手配して欲しいの。至急に。何しろまずは博物館の台座から下ろしてトレーラーに載せないと整備ドッグにも持ち込めないから」  衛星電話で海洋研究開発機構の本部に連絡をとる。電話の向こうも予想外の事態に慌てているようだ。 「そうね……総重量は確か26トンだったと思う。部品の一部を外せば何とか25トンを切れるわ。そうすれば25トンのクレーンで台座から吊下ろせるはず」  クレーン作業……。あーあ、これで博物館は緊急閉館か。申し訳ないけど、仕方ないわね。 「整備ドッグの方は何とかして対応するそうです」  飯島が額の汗を拭う。  だが、問題はそれだけではない。  例え整備が出来たとして、どうやってこの海域まで持ち込むのかが。 「整備ドッグからの船便の手配は出来るでしょうか?」   船長に尋ねる。 「うむ……一応、クレーン船を聞いている。列車を運搬する船だから、26トンの探査挺でも重さの問題はないのだが……」 マイクのスイッチは入れたままにしてあるから、探査挺にも聞こえているだろう。 「クレーン船は速度が出ない。港からここまで単純計算で140時間以上は掛かるだろう」  140時間となると、約6日間だ。  が、間に合わない。
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