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クラブの前で3
俺は、出たり入ったりする客達を適当にあしらいながら仕事をしている。
この辺りの独特な遊び場の空気も何も知らないんだろう。
新宿は夜に暮らしてる人間にとっては、干渉と不干渉の[[rb:狭間> はざま]]が丁度よい街なのだ。
「ナルカ!チェンジだ」
俺よりガタイも背も高い、軍隊上がりのジョーイが、にやにやしながら現れた。相変わらず、見事な上腕二頭筋が褐色に艶めいている。
暑苦しい防刃ベストを脱げることにホッとしながら、ジョーイと互いの肘を付けて挨拶を交わす。
「make love?(ヤるの?)」
ジョーイが藍に気付いて目配せしながら聞いてくる。
今夜はさっきからコイツのせいで、ゲスなジョークが多い。
「No!!(はあ?」
入場を止めといて、ヤる訳ないだろ。
大体、藍みたいな細すぎる男なんて好みじゃない。
その時は、思っていた。
入り口とは反対の、裏口の地下にある事務所に戻り、灰色のドアを開ける。
「おつかれさま」
「うわ、涼しいな!おつ!」
雑然と私物も散らかっている室内で黙々とパソコンの事務作業をしているのは、球磨利だ。
度の強そうな眼鏡に、長めの黒い前髪がかかり、前も見づらそうだが、球磨利は毎晩、ここで雑務をこなしている。
「何時まで?」
「本当は1時なんだけど、ちょっと片づけたい作業あるから」
パソコンから目を離さずに答えてくる。
俺は隣に置かれたノートパソコンの画面の表示された、退勤のボタンをクリックし、「ふ〜ん」と答えた。
「なぁ、拾いもの連れて、匡のとこ行くけどお前は?」
パイプ椅子がガタガタと音を立てて揺れ、眼鏡の黒い縁を指で押さえながら、球磨利が小さな声で「後から行く」と答えた。
マジで分かりやすすぎんだろ。
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