二章 決戦に臨む者たち

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「となると、この戦争だって突き詰めれば『ノアの意志』によるもの、ってことになる。踊らされてるのさ、オレたち人類は。姿形の見えないモノにな。――だからこそ、その本質を深く考察したいと思っている」  なるほど。要約するなら、ルカは『ノアの意志』を信仰していない。むしろ疑っていると、そういうことだろう。  どうやら、ハンスの人間観察は、それほど間違っているわけではなかったらしい。  ただ、だからといって、伝承など信じないとあからさまに距離を置くわけでもないようだ。 「踊らされてる、か……」  言葉遊びに近いが、そういう解釈もたしかにできる。 『ノアの意志』の伝承がこの世界の本質でありすべてなら、人間は裏でノアに操られているにすぎないともいい換えられる。 「考察っていうと――つまり『ノアの意志』っていう曖昧な現象が真実なのかどうかを、ルカは調べるつもりなのか?」 「うーん、そうだなあ……。説明するとなると難しいんだが――」  一度考える仕草をする。しかしそこには、すでに確固たる決意が共存しているようにすら思えた。  パフォーマンスとして、そういう態度を取っているだけなのだ。  「超おおざっぱにいうなら、そういうことなんだけどな。けど、だからといって『ノアの意志』を全面的に否定しているわけじゃないんだ。世界の歴史や人間の運命が、ノアというこの世界によってコントロールされているってのは、全然まったくこれっぽっちも納得できない事象ってわけじゃあない」  そうだろうな、と思う。  伝承が古くから現代まで、廃れず残るということは、そこにはそれなりの根拠があるのだ。  火のないところに煙は立たないというように、長い時間を経て受け継がれるには相応の理由がある。  だから『ノアの意志』という、この世界を支配する大枠が存在することを、簡単には否定できない。  ハンスはそう解釈している。
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