12人が本棚に入れています
本棚に追加
うーん、わけがわからなくなる。
「どうだい? 考え出すと夜も眠れなくなりそうだろ?」
ハンスの心情を察するように、ルカは口を開いた。
どうやらしばらく、考え込んでしまっていたらしい。難しい顔でもしてしまっていただろうか。
「今晩はうなされるかもな」
ハンスはそう、冗談めかす。
ははは、とルカは愉快そうに笑った。
普段から非常に気のいいところのあるルカだが、今日は特別調子が良いようにも見える。
けれどまだ、ルカが目指している話題の着地点は見えてこない。
「それで? そこまで考えるなら、何かあるんだろ? その先に見えてるものというか、ルカなりに導き出したい結論が」
ニヤリとルカは笑う。自信に満ちた顔で。
「ハンスはなかなか面白いヤツだよな。本当に気が抜けないよ。オレなんかのことはお見通しみたいだ」
「いや、どっちがだよ。――俺はそんな大層な人間じゃない。思ったことをいってるだけだ」
「そうかい……」
まるでハンスの性質などには興味なしというように、ルカは端的に切り返した。
不意に沈黙が訪れる。ここからが本番だと思わせる空気が、周囲を包み込んでいく。
「――実は一つ、証明したいことがあってね」
ルカは呟く。
証明したいこと。それは『ノアの意志』の思想を否定してまで、導き出したい結論なのだろうか。
「こんな当たり障りのない、そう、それこそ、この足元の砂粒のような、平凡でちっぽけな存在であるオレにも、『ノアの意志』は律儀に適用されているのか、っていうささやかな疑問でね……」
不穏な雰囲気をまといながら、ルカは告げた。
砂粒はさすがにいいすぎにしても、いいたい内容は理解だいたいできる。この世界に無数の人間が暮らしているなら、自分という個人など、足元の砂粒のようなものなのだ。
最初のコメントを投稿しよう!