二章 決戦に臨む者たち

43/50
前へ
/310ページ
次へ
「現在のアルディスに伝わっている思想だとか、教えどおりなら、この世のすべての存在に『ノアの意志』は当てはまるはずだ。つまり、ルカの言い分はこういうことか? ――今俺とルカがこうしてこの時間にこの場所で議論しているのも、『ノアの意志』によるものなんだと」 「そういうこと。公式的な解釈では、だけどな」  ルカは意味深にいって、口の端で笑みを作る。 「たとえば今さ、こうしてオレたちは国どうしの争いをしているだろ。これもつまりは『ノアの意志』による導きだってことになる」 「まあ、たしかにそうなるだろうな――」 「それを踏まえると、『ノアの意志』はこの世界を一つの国家に統治しようとしている――という解釈ができる。それがゼノビアになるのか、アルディスになるのか、それはわからないけど」  この戦争にゼノビアが勝てば、いずれはイーヴァインをも撃ち取って世界はゼノビアの領土となるだろう。  アルディスの勝利なら、イーヴァインとの二大国家になるのだろうか――。  いずれにしろ、想像できる未来像はそんなところだ。 「ということはだ、ノアは人間を一つの国にまとめてしまおうと考えているってことになるだろ? 少なくとも、どちらが勝利したにしろ、国家の数は減るわけだ。三から二か、もしくは三から一にな」 「そうだな。それはわかる」  ハンスの肯定に、ルカは無言で頷くというかたちで答える。 「じゃあ、それが『ノアの意志』だとするなら、ノアは何を望んでいると思う? ある程度の均衡が取れた今のこの世界に、あえて争いを生み出すメリットはなんだ? しかも国どうしの戦争は、歴史を紐解いていくと、定期的に起こっている。平和な頃合いを見計らうかのように、何度も何度も繰り返されている――」  それが『ノアの意志』だとするなら、ノアの目的はなんなんだろうな――と、ルカは問う。まるで自問するかのように。
/310ページ

最初のコメントを投稿しよう!

12人が本棚に入れています
本棚に追加