二章 決戦に臨む者たち

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「絶対的……か? なんというか……難しいな。どういうことだ? お前にとって『ノアの意志』に選ばれることは絶対的なことなのか?」  意図せずとも質問ばかりになってしまう。  そもそも結局、この世のすべての事象が『ノアの意志』によって決められているという絶対のルールが、思考をややこしくしている。  人間は自ら考える生き物だが、伝承の思想を鵜呑みにするなら、それらの考えというのもすべて、『ノアの意志』によるものとなる。  物理的な現象に規則性――法則があるように、人間の行動もまた『ノアの意志』によって規制されている――というのが『ノアの意志』の思想なのだ。 「まあまあ、そう難しく考えるなよ。――って、ここまでもったいつけてたのは、オレのほうか。悪かったな」  ルカは鼻を鳴らすようにして笑った。  そろそろ本題を話さないとな、とルカは宣言した。 「オレの導き出した結論はな、もっとシンプルなんだぜ? 『ノアの意志』ってのはな――実は、この世のすべての事象を司っているわけじゃあないんだ」  ルカはいい放った。これまでアルディスで広く流布されてきた、『ノアの意志』の思想を否定する理論を。 「実は絶対的だとされている『ノアの意志』にも、コントロールできないものは存在するんだ。――それがたぶん、。もっというなら、意志を持つことになった人間だ」 「意思を持つ? ――でも、人間はだいたい意思を持ってるよな、たぶん……」 「ああ、少し言葉が悪かったかな。『人間という意志を持った生物』――のほうが表現としては正しいかもしれない。要するに、本能で生きている動物や魔物、虫や魚や鳥とも違って、人間は自ら思考することができる。これは生物の中では、人間だけに与えられた特権なんだ。たぶんな。それはつまり、『人間は意志を持っている』ってことなんだよ」 「詰まるところルカの意見は、たとえノアであっても、『人間の意志』を操ることはできない、と? 『ノアの意志』と『人間の意志』は別々に存在するというわけか」  さっきルカが覚えておけといっていた、戦争には必ず国家どうしの思惑があるというのは、このことだったわけか。
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