三章 『AL作戦』

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 そしてユキも――。  おそらく近くにいるはずなのだが、まだ今日は姿を見ていない。会いたいような会いたくないような、不思議な気分だ。  レヴォルツを抜く。ここからは三六〇度すべての方向に意識を集中しなければならない。敵はどこに潜んでいるかわからない。  建物の影に隠れて進む。ゼノビア軍がどこに兵器を仕込んでいるのか、その情報も得られていない。  防御魔法は事前にかけられているが、それも無限ではない。頼りきりではだめだ。  煉瓦質の迷路のような区画を抜けると、偶然にもシェイラの背中を見つけた。パラディンの象徴である黒の軍服と、特徴的なエクテイルの後ろ頭が揺れているのが見える。  一定の距離を取りながら、彼女を追いかけるように進んだ。  やがて中心地が近くなってきたところで、どこからか銃声が聞こえてきた。シェイラがさっと手を挙げる。  ハンスや、周囲に数人いた他のブレイバーたちが、それぞれ一斉に路地に身を隠した。斜め前方の路地に佇むシェイラが、魔構機銃をスタンバイしたのがわかった。  敵の姿はまだ見つけられていない。  そのとき――街のどこかで巨大な爆発音がした。  同時に、遠くの空に黒煙が立ち上る。ついにどこかで交戦が始まったか――。  そう思ったとき、街のどこかに設置されているスピーカーから、男の声音が聞こえてきた。これは街に点在している、公共の放送設備だ。 「アルディス軍諸君。――すでにアルディスの五割以上は、我々ゼノビアの支配下となっている。おとなしく降伏を宣言するのだ。さもなくば、今以上に多大なる血が流れることとなる。――手始めに、その証拠を示そう。よく見ておくがいい」  そこで放送は止んだ。その一瞬の静けさが、嫌な出来事を予感させる。  次の瞬間だった。何か重いものが打ち付けられたような轟音が、遥か遠くで響くのが聞こえた。
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