三章 『AL作戦』

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 そこでふと、我に返る。  それより今は自分の身を案じるべきか――。  そう思って気持ちを切り替えたときに、下のゼノビア軍の集団の中から、うめき声が聞こえた。魔弾が破裂したときの、独特の効果音も続いた。  誰かの――たぶんシェイラの攻撃が、敵兵に命中したのだ。  屋根の素材を一枚剥がす――。  マナの力を使えば、ある程度のコントロールは効く。  列を成すゼノビア軍の中に、一人だけ白の軍服にエンブレムのような特殊な刺繍があしらわれた者がいた。  あれがリーダー格なのだろう。その人物に向けて、剥ぎ取った屋根の素材を投げつけ、ハンスも飛翔した。  足が地面に着く前に、鈍い音がした。リーダー格の軍服の男が前のめりに倒れるのが見えた。周囲の兵士の目が、そちらに向けられた。  レヴォルツを、着地と同時に振り下ろした。  一人の兵士の脳天をもろに叩いた。おそらく、頭蓋骨を砕いた。  当然その男も卒倒する。さすがに気づかれたわけだが、すぐに近場の兵士に向かって剣を振るった。 「ぐぅっ!」  うめき声とともに、引かれたように後ろへ飛んでいく。強力なマナのエネルギーによって、周囲の建物に亀裂が生じ、粉塵を舞い上がらせた。 「敵襲だあぁぁっ!」  前方のどこかでゼノビア兵の声が響いた。  一列に並んでいたはずのゼノビア兵の隊が乱れる。アルディスの兵士たちも、ここぞとばかりに攻め行ってくるのが見えた。  銃声が轟く。ハンスはフットワークを生かして、近場の建物の影に隠れた。鉄の銃弾が石造りの建物にふつかり、小さな欠片をいくつも地面に降らせる。  弾丸と煉瓦では、元々の硬度に差があるため、そうなることは必然だ。  このあたりはもう、争いが引いても以前のようには住めないのかもしれない――。
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