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しかし見覚えはない。面識はないし、顔も知らなかった。おそらくはコガネクラスに所属しているのだろう。
ハンスは駆け寄った。そして彼を抱き起こそうとして、思わず躊躇した。
「大丈夫……か……」
いや、大丈夫ではないと、ハンスは自分自身の言葉を心中で制していた。
「……っ……」
声にならない吐息が口から漏れた。
ひどい状態だった。それ以外の言葉が見つからない。
おそらく、防御魔法が剥がされた状態で、大量の弾丸を浴びてしまったのだろう。身体のあちこちから、大量の血液が流れ出している。
「っ…………う……っ……」
必死に声を出そうとしているが、ままならない。それもそのはずだ。
何せ彼は――顔面にまでも弾丸を浴びていたのだ。
顔の半分が、原型を失うほどのダメージを受けている。それでも運が良かったのか、即死を避けることができたようだ。
いや、運悪く、即死を避けてしまった、というべきなのか――。
運悪く、即死できなかった。だからこうして、死が確定していながらも、最後のもがきを続けなければならない。
そう、間違いなく、彼はもう長くはない。助からない。
それだけでなく、腕の肉も骨も、分断されそうなまでに損傷している。
ハンスがさっき、助けようとして彼に触れることをやめた理由がそれだった。
おそらく触れてしまっただけで、彼は激痛に襲われてしまうに違いなかった。
だから、できなかった――。
「……お……ぅ……っ……あぁ……う……」
まるでゾンビのようなうめき声をこぼす。
もはや彼は、いつやってくるかわからない、命の事切れるその瞬間を待ちながら、苦しみ続けなければならないのだ。
やるせない気持ちに襲われた。
彼は、名前も生き様も知らない、赤の他人だ。だが同じブレイバーとして、アルディスのために尽力した一人であることは疑いようもない。
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