三章 『AL作戦』

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 まさか、そんな表情になっているのか――? 「いや、そんな……そんなつもりは……」 「別にいいのよ。誰がどう考えようとね、あたしには」  シェイラは被せるようにいった。  まるで突き放すように。それは一見、おおらかに理解を示しているようで、暗にハンスの考えを非難しているようにさえ感じる。 「――でも、少なくとも、彼はもう助からなかったわ。あのまま死を待つだけの苦しみを何時間も味わうくらいなら、いっそ一瞬のうちに終わらせてあげるのも、一つの優しさなのよ」 「……っ」  たしかに、彼は助からなかったのかもしれない。  ならば痛みに耐えながら死を待つよりは、一瞬で命を絶ってしまったほうが楽であることはわかる。シェイラのいう通りだ。なんの間違いもない。  理屈では理解できる。  けれど――。  それは人道的に正しいことなのだろうか?  人生の終わりを、他人に決められていいものなのだろうか?  無論、彼とて、死を覚悟できていただろう。  けれどだからといって、彼の意思を確認することもなく、不意討ちのように命を絶つことは、はたして正しいといえるのだろうか――?  そんな反論をするだけの強さは、今のハンスには到底なかった。勢いで口にしてしまったら、おそらくすぐに論破され、説き伏せられてしまうだけだろう。  まだまだ足りないものが多すぎる――。 「さて、まだ戦いは終わりじゃないわ。こんな光景を見た後でも、ハンスくんはちゃんとついてこられるかしら?」  シェイラはいった。ルカや他の誰かではなく、間違いなくハンスへの問いかけなのだった。  それは挑発のようにさえ思えた。まさかついてこられないとはいわせない、というような脅しにも思えた。  何にせよ、ここでリタイアする選択肢は、ハンスにはなかった。 「行きますよ。当たり前じゃないですか! どこへでも、どんな凄惨な戦場にも……」  ハンスは答えた。でなければ、初めからブレイバーに志願したりはしない。半ば反抗のようなものだった。  それでも、満足そうにシェイラは笑みを浮かべた。 「さあ、行くわよ? 彼らの親玉は向こうね」  そして街の西側へ向けて走り出した。
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