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まさか、そんな表情になっているのか――?
「いや、そんな……そんなつもりは……」
「別にいいのよ。誰がどう考えようとね、あたしには」
シェイラは被せるようにいった。
まるで突き放すように。それは一見、おおらかに理解を示しているようで、暗にハンスの考えを非難しているようにさえ感じる。
「――でも、少なくとも、彼はもう助からなかったわ。あのまま死を待つだけの苦しみを何時間も味わうくらいなら、いっそ一瞬のうちに終わらせてあげるのも、一つの優しさなのよ」
「……っ」
たしかに、彼は助からなかったのかもしれない。
ならば痛みに耐えながら死を待つよりは、一瞬で命を絶ってしまったほうが楽であることはわかる。シェイラのいう通りだ。なんの間違いもない。
理屈では理解できる。
けれど――。
それは人道的に正しいことなのだろうか?
人生の終わりを、他人に決められていいものなのだろうか?
無論、彼とて、死を覚悟できていただろう。
けれどだからといって、彼の意思を確認することもなく、不意討ちのように命を絶つことは、はたして正しいといえるのだろうか――?
そんな反論をするだけの強さは、今のハンスには到底なかった。勢いで口にしてしまったら、おそらくすぐに論破され、説き伏せられてしまうだけだろう。
まだまだ足りないものが多すぎる――。
「さて、まだ戦いは終わりじゃないわ。こんな光景を見た後でも、ハンスくんはちゃんとついてこられるかしら?」
シェイラはいった。ルカや他の誰かではなく、間違いなくハンスへの問いかけなのだった。
それは挑発のようにさえ思えた。まさかついてこられないとはいわせない、というような脅しにも思えた。
何にせよ、ここでリタイアする選択肢は、ハンスにはなかった。
「行きますよ。当たり前じゃないですか! どこへでも、どんな凄惨な戦場にも……」
ハンスは答えた。でなければ、初めからブレイバーに志願したりはしない。半ば反抗のようなものだった。
それでも、満足そうにシェイラは笑みを浮かべた。
「さあ、行くわよ? 彼らの親玉は向こうね」
そして街の西側へ向けて走り出した。
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