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どれくらい進んだときだろうか――。
不意に、唐突に、その場の空気が変化する瞬間に出くわした。まるで空気の薄い場所に意図せず紛れ込んでしまったかのように、そこはピリピリとした緊張感が漂っていた。
シェイラが、ゆっくりと速度を落とした。やがて、足は止まる。
そのシェイラと対峙するのように、十数メートルの先に、何者かが佇んでいた。
ゼノビアの白い軍服なのだが、上着がロングコートのような丈の長い姿をしている。それはまるっきり、アルディスのブレイバーパラディンが身にまとう軍服と同じように。
軍服の丈の長さは、それだけで階級の高さを意味している。デザインは違えど、そこの思想はアルディスもゼノビアも同じなのだ。
つまり、目の前のこの男は、ただの一般兵ではない。ゼノビア軍の幹部クラスということになる。
「アルディスの……ブレイバーか……」
男はいった。
ゆらりと身体を動かして、足の裏で何かを踏みつけながら。
よく見ると、そこにあるのは灰色の軍服に身を包んだ、アルディスのブレイバーだった。つまりブレイバーナイトだったのだ。
三人のブレイバーが、大地にひれ伏していた。それで男自身は無傷なのだ。必然的に緊張感が走る。
「お前たちを足止めするのが……この俺の仕事なんでな。お前らもまた、ここでおとなしく眠ってもらうぞぉ……」
気だるそうにいう男――。
その感情を表現するかのように、頭髪も手入れなどあまりされていないようで、墨を垂らしたような真っ黒の髪を無造作に伸ばしているだけのように見えた。
ゼノビアの軍服はフードのようにすっぽりと頭を覆うデザインなのだが、彼のそれはジャケットかコートのような作りになっているようだ。
だから、特徴的な黒髪が外気に晒されている。
同じように瞳も黒い。まるで闇の世界の住人であるかのように、黒く濁って見えた。
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