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表情も、闘志に満ちたそれではない。面倒なことを任されて嫌々働いているというような、気力のなさが滲み出ていた。
それでいてブレイバーナイト三人を退けるのだから、実力は折り紙つきなのだろう。
「あら、あなたは……」
シェイラが口を開く。
「噂に聞く、エルヴェル・ジェルマン中佐じゃなくて?」
シェイラが、ゼノビア兵の名を知っているとは驚きだった。
ということはやはり、それなりの実力者なのだ。見た目は若く見えるが。ハンスよりは上だろうが、おそらく二十代だろう。
そんな階級の人間が前線に出ているということは、アルディス軍の攻撃の成果も出ていると見ていいのだろうか。
ほう、と惚けた声を出す男――エルヴェル。
「まさかアルディスの――なんだ? ええと、たしか、ブレイバー……とかいう連中だったか――そんなキミたちに名前を知られているとは、名誉なことなんだろうなぁ……」
「そうねえ。名誉なことだから、ついでにここで名誉の戦死をしてちょうだい。あたしたちは急いでいるの」
未知数の相手にも、怯むことなく、シェイラは挑発を放つ。
「……そうはいかないなあ。この街は我が軍の兵器によって制圧される。そのための障害は、一つ残らず排除しなければならない。よって、お前たちのほうがここで名誉の戦死を遂げる」
ハキハキとではなく、ゆっくりねっとりと一言一句丁寧に、エルヴェルは言葉を並べた。元々こういう喋りなのだろう。
まあ、喋りはいいとして――。
エルヴェルは据わった瞳をこちらに飛ばしている。一見、ぼけっとしているようでも、その雰囲気は殺気を含んだそれだった。
当然、そうなるだろう。
口でいって道を開けてくれるくらいなら、端から戦争など起こらない。ここを通り抜けるには、この男を制圧するしかない。
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