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爪先から頭までどっぷりと、ゼノビア軍という思想に染まっている。
「仮に俺がここで死んだとしても、ゼノビアが戦争に勝利すれば、それで俺も勝利できる」
「できるといっても、もう死んでるんだろ」
ヤツの綻びを見つけたくて、ハンスはそう告げた。
エルヴィルは笑った。嘲笑した。
今日一番、おかしそうに笑った。
「面白いなぁ……」
突然、真顔に戻った。奥底から涌き出たような、どすの効いた声だった。
「むしろキミはどうして、そんなにも生死にこだわるんだ? たとえばじゃあ、キミがこの戦いで生き残って、しかしそれでアルディス軍が敗北したら、キミとしてはそれでいいのか? ゼノビアに制圧された世界で生き残って、元アルディストン人のキミは自分が生きていることに安堵するのかぁ……? それはキミにとって、勝利といえるのかなぁ? 結局のところ、それは敗北と同義でだろう」
エルヴェルは迷うことなく、つらつらといい放った。
いざ聞かされると返答に窮する言葉だった。敵にいい負かされてしまうのは悔しいので、反論を探してみるが、見つからない。
たしかにアルディス軍の勝利以外に、未来を感じられないのは事実だった。
エルヴェルは勝ち誇るように続ける。
「個人の生死など些末な問題だ。そもそも軍人なんて何人存在していると思っているんだ? その一人がどうなったとか、軍が気にしなくてはならないのはそんな小さなことじゃないぞぉ。戦争とは、勝利とは、もっと巨大で絶大で、他に替えの効かないものなんだよ」
そもそも思想が違うのだろう――。
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