12人が本棚に入れています
本棚に追加
/310ページ
ゼノビア兵のすべてが彼のように死をも超越しているわけではないのだろうが、しかしだからこそ、彼には中佐という役職が与えられているのかもしれない。
つまりゼノビア軍のさらに上役は、彼かもしくはそれ以上に、生死を超越した人間の集まりだということだ。ゼノビアの勝利だけに忠実な連中だということだ。
いうなればそれは――シェイラのような合理的な人間の集まりなのかもしれない――。
「いいわよ、ハンスくん」
その、シェイラの声がする。
少し離れたところから、彼女は切り離すようにいった。
「ゼノビアとアルディスでは、根本的に思想が違うんだから。いちいち相手にする必要なし。彼の望む通り、ここで命を落とさせてあげればいいの。ただそれだけのことでしょう?」
シェイラは笑みさえ浮かべている。その場違いさにこっちの精神が乱されるくらいだ。
「ふふん……。それだとまるで、俺が進んで死にたがってるように聞こえるけど――まあいいや。お姉さんのいうように、こんなところでぺらぺらと自分たちの思想を語るなんてのは、たしかに無駄なことだなぁ……」
「そうでしょう。さっさと終わらせてしまいましょう。あたしたちは、早くあなたを蹴散らしたいし、あなたはできるかぎり邪魔をしたい――ここにあるのはそれだけのことよ」
「シェイラさんらしいっすね」
これまで黙々としていたルカが、半ば呆れたようにそういって、魔槍をかまえ直した。
皮肉っぽくいいながら、ルカは彼女に賛同しているだろう。
もしかするとエルヴェルの言葉さえ、わかるところがあるのかもしれない。ルカは自分の欲望に正直なのだ。きっと、ハンスが出会ってきたブレイバーの誰よりも。
最初のコメントを投稿しよう!