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斬りかかる。うねる剣の中間部で受け止められた。
反対側から、槍の長さをマナによってコントロールしたルカが突きを繰り出した。それをまた、うねる切っ先がいなしていく。
シェイラの弾丸も飛ぶ。エルヴェルはそれにも対応する。
慣れた動きだった。近年のゼノビア兵は、銃器の普及と反比例するように、対人戦闘能力が落ちていると聞いていたが、やはり幹部は違うようだ。戦いを熟知している。
身のこなしはもちろんだが、魔弾を避けられないとみるや、オリハルコンの鎧を着込んだ身体で受けるという手段を取っている。その大胆な戦法は、経験の浅い兵士にはできないだろう。
何より恐怖心に打ち勝てない。わかっていても、逃げたくなるのが人情というものだ。
そういう意味でも、エルヴェルは胆の据わった戦いをしている――。
「惜しいくらいだ……」
エルヴェルは呟く。
「軍の縛りがなければ、もっと壊れられるのになぁ」
口の端だけに笑みを浮かべる。
壊れる、の真意はわからない。それだけ無茶ができるということか。
組織の後ろ楯があるぶん、任務に特化した戦いをしているのだろう。つまり、足止めだ。
「だが――少しなら、いいか……」
ぞくりと、刺すような殺気を感じた。それはほんの僅かの時間、ハンスに隙を生み出した。
うねる剣がハンスを襲ってきた。飛び出した刃の先端が肩口に衝突した。
張られた防御魔法のシールドが、黄色の光を飛散させた。いくらかのマナが剥がされたのだ。
「……っ……」
外傷はなくとも、衝撃による痛みが走る。
間髪なく、次の切っ先が迫ってきた。レヴォルツで受けようとしたが、瞬時に軌道を変えた。
「ぐっ……」
脇腹のあたりに衝撃があって、身体が横に飛んだ。無理に抗うことはやめて、受け身を取って地面を転がった。
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