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「今のは――?」
シェイラが呟いた。
彼女が驚くほどの何かが起こったのだ。
そしてエルヴェルは無傷。いったいあの状況から何をしたというのだろう。対応できる策など何一つ想像できなかった。何一つ存在しなかったはずなのだ。
まさか魔法が使えるわけでもあるまい――。
ルカはその光景を目撃したのだろうか?
「だあっ――」
エルヴェルが大きく腕を振る。うねる剣が左右に暴れた。
一度距離を取る。そこへシェイラの魔弾が撃ち込まれた。フットワークと鞭剣でいなしていく。
ただ、シェイラはそれでも打ち続けた。隙を窺うというよりは、力業で隙を作らせようとする攻撃だった。
らしくない、と思った。
彼女はあまり無駄撃ちするタイプではない印象だったが――。
そこで、エルヴェルにまた、わずかな隙ができた。鎧のない部分に――顔面に魔弾を撃ち込めるチャンスが巡ってきた。
当然ながら、シェイラもそれを狙う。赤い光の弾がエルヴェルにぶつかるその瞬間に、それは起こった。
「あれは――!」
赤い光が突如としてその輝きを失ったのだ。
それだけではない。魔弾自体が消えてなくなっている。マナによって作られた実体のない弾なのだから、それはある意味当然の結果なのだが、特筆すべきはそこではない。
エルヴェルは、魔弾を打ち消したのだ。
マナと魔力によって作られた弾丸を、まるで吸収するかのように、消失させた。
魔法無力化――。
そのワードが脳裏を駆け巡った。
間違いない。ハンスは知っている。いや、ハンスだけが知っている。
あの能力を。あの現象を。誰も知らないはずのその力が、今目の前で発動したのだ。
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