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「戦闘中にそんなことを気にしている場合じゃないだろう? まだ勝負はついていないんだぞぉ?」
エルヴェルは怯むことなく戦闘体勢を取った。仮にここで命を落とそうとも、ハンスらの行く手を阻む姿勢に変わりはないらしい。
そのときハンスの心には、非常識な願望が生まれていた。
できるなら、生きたままエルヴェルを制圧したい、と。
生かしたままで、魔法無力化の能力について問い詰めたい、と。
「ついでだ。オリハルコンが、神鉱物と呼ばれる所以を見せてやるよぉ……」
エルヴェルはそういって、何やら小さな石のようなものを取り出した。灰色ではなく、濃い黒色をした石だった。
それも艶やかな光沢がある。宝石のごとく、磨かれているかのように。
それを――エルヴェルはうねる剣の切っ先にかざした。そして、刃物部分へと、その石を滑らせた。まるで刃を磨ぐような動作だった。
いや、正しいのかもしれない。うねる剣の刃を磨いで、より切れ味を増幅させたのかもしれない。
いよいよ本気で命のやり取りをすることになるか――。
「ここからは弾丸すら切り裂く剣だ。触れると何でも切り落す……」
エルヴェルは不適に笑い、うねる剣を握り直す。そして静止した。緊張感が、あたりの空気を包み込んでいく。
「そこからだぁ!」
エルヴェルは今日一番の大声で叫んだ。
狙いは、まずはハンスだった。
横へのフットワークで回避する。
その直後、うねる剣がハンスのもといた場所の後ろの建物へと接触する。石造りの壁だったのだが、それはいとも簡単に分断されてしまった。煉瓦上に綺麗に切断されて、がらがらと壁が崩れ落ちていく。
どうやら――想像を三歩ほど越える切れ味を持っているようだ。
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