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「ほらほらぁっ」
エルヴェルは手を休めることもなく、一心不乱に獲物を振り続けた。防ぐのが精一杯になるほどに、強力な圧力を感じる。
そうさせるのは、不規則に動く特殊な剣のせいだけではないだろう。それだけの鉱物の塊を、長時間にわたって質を落とすことなく振り続けられるエルヴェルの体力と技術力の高さがそうさせるのだ。
しかしハンスとて、剣士の端くれだ。そして誇り高き、アルディス軍のブレイバーでもある。
仮に技術で負けようとも、精神的な敗北だけは許されない。軍の命令や指示とは関係なく、自分自身の誇りの問題として。
「なかなかいいじゃないか! む――」
突然、エルヴェルがバックステップで、急激にその場を離脱した。
その直後に、ハンスの目の前に魔弾が着弾した。まさに足元に。一メートルも離れていないだろう。
むしろ、こっちが危なかったぞ――。
良くも悪くもさすがはシェイラだ。
最悪はハンスを撃っても良しとする采配なのだろう。やられた側としてはたまらないところだが、そこまで徹底した勝利へのこだわりだけは、もはや称賛に値する。
百パーセント当てない自信もあるのだろうが――。
「うーん……やっぱり三人は厳しいなぁ……」
エルヴェルはうねる剣を無作為に振った。ワイヤーで繋がれたいくつもの刀身が、曲線を描きながら動物のように動き回る。
「なら……」
呟いて、また即座にエルヴェルは行動した。
今度の狙いはルカだった。マナの力によって長さが変化する魔槍が、今は緑の光に包まれていた。
そこにエルヴェルの攻撃が加えられる。うねる剣と魔槍がぶつかろうとする。
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