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「ハンスくん。敵は他にはいないわよ?」
窘めるようなシェイラの声がした。
「いや、でも――」
シェイラはにやりと、口の端を持ち上げて笑った。
「固定観念にとらわれていてはダメよ? 戦場には些細な油断も許されない。――その男と同じようになるわ」
嫌に冷静な口調で、シェイラが近づいてくるのをハンスは見た。彼女の持つ魔構機銃の銃口からは、白い煙が立ち上っていた。
それでようやく、ことのからくりが、ぼんやりと読めてきた。シェイラの言葉から想像するなら、魔構機銃という言葉に、ハンスも騙されていたのだ。
ただ、そんな武器がありえるのか?
「残念だったわね。エルヴェル・ジェルマン中佐」
シェイラは、エルヴェルの正面に立ち、真上から彼に言葉を浴びせた。
「あたしの銃は、魔弾だけじゃなく、銃弾も撃てるのよ。魔構機銃『ドミネーター』は戦場を支配する――。あたしにできない攻撃はない」
やはりそういうことか――。
エルヴェルを射抜いた弾丸は、ほかならぬシェイラの魔構機銃から放たれたものだったのだ。
その弾丸が、エルヴェルの肉体を貫いた。
具体的にいうなら、首筋の――おそらく動脈だろう。
僅かに露出していて、しかも致死率の高いポイントを的確に貫いた、シェイラの技術の勝利だった。
「ぐ……ふうっ……」
ブーツで蹴り上げるようにして、シェイラはエルヴェルを無理やりにうつ伏せから仰向けにさせた。その行動には、まるで慈悲という感情は見受けられなかった。
人間的ではない――。
もう助からないと思われる相手に、非人道的な攻撃を加えたのだ。
同情さえ生まれた。正々堂々と命を削り合った相手には、名誉の最期を与えるべきなのに。
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