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「――運ぶ? どこに?」
聖地――? 何のことだ?
「いえんな」
「じゃあ、質問を変えよう。お前は何者なんだ? 俺はアルディス軍のハンスだ――。ゼノビア兵には見えないが」
「私たちは何者でもない」
おかしなことをいい出した。
しかも、私たち――?
「そんな人間がいるか。人として生まれ落ちたなら、身分と名前くらいはあるだろ?」
それでも男は、簡単に口を割ろうとはしなかった。しかし最後にひと言だけ、こう告げた。
「ヴァルキリー」
「え?」
「――とでもいっておこう。あえて名乗るなら、な」
表情を変えずにそういうと、男は消えていった。人間一人を担いでいるとは思えないほど、機敏な動作だった。
ヴァルキリー?
また、謎の組織が現れたのか?
死体を持ち帰るなどという、趣味の悪い組織が。
「――と、それどころじゃない」
シェイラとルカに遅れをとってしまった。
ハンスはすぐに、アルデウトシティの中心部に向かって、足を動かし始めた。
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