三章 『AL作戦』

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※※※  すでにその場所は、華やかに栄えた元々の街の姿からは、見間違う程に遠く離れているという有り様だった。  自走兵器の装備している弾丸は、兵士たちが使用する銃器から放たれるそれとは比べものにならないくらい、大きさと発射速度に違いがある。  たとえていうならば、それは大人と子どもの腕力の違いのようなものだった。  その自走兵器との、総力戦ともいえる戦闘によって、周囲は壊滅的な被害が及んでいたのだった。  頑丈な石造りだと思われていた建物は、いくつもが完全なる崩壊の途をたどっていた。  まさに瓦礫の山といってもいい。そのうえ、おそらく蓄えられていた油に引火したのだと思われる火災も、あちこちで発生していた。  街全体が熱気に包まれて熱いのだ。風が吹くと、生ぬるさを通り越して、わずかな熱さを感じる空気の固まりが襲いかかってくる。  道路も悲惨な状況に陥っていた。瓦礫が散乱しているだけではない。むしろそれだけなら、どれほど良かっただろう。  そこには兵士の身体が、あちこちに横たわっているのだ。白の軍服があれば、灰色もあって、黒もある。  灰色と黒は、もちろんアルディスのブレイバーの軍服だ。しかも灰色はナイトで、同じクラスに属する仲間である可能性すらある。  その戦死者の顔を、興味本意で覗くというのは、心情的にも憚られることだった。もしも見知った人物だった場合――今後の戦いに支障をきたす恐れがあった。  ハンスはシェイラのようにはなれない。  人間の死に対して無関心にはなれなかった。死体の数だけの人生があったのかと思うと、やるせない情動にさいなまれるのだ。  ユキはどこでどうしているのだろう――という気持ちが、不意にもたげてきたが、それは即座に打ち消した。  どう転んでも、その先は嫌なほうの想像になってしまうからだ。無事だと信じて、今は最強の敵を打倒することに集中するべきだろう。
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