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「あの……レジーナ様は、普段はずっと、この建物の中で生活しているのですか?」
興味を抑えきれず、訊いてしまっていた。
「私ですか? ――そうね。大抵はここか軍本部か魔研にいて、軍事的にアルディスの支援を行っていますよ。でも、たまには外に出ることもあるのよ? 変装したら意外とバレないんだから」
少し冗談っぽく、お調子者っぽく、レジーナはいった。
それだけで、少しは救われた気持ちになった。化神という重荷を背負ったうえに、人間としての自由さえも奪われて生きているなら、いたたまれなかったからだ。
そんなユキの心中を察したわけでは、けっしてないだろう。
ただレジーナは、まるですべてを見抜いたような瞳――吸い込まれるような赤い瞳で、ユキを見つめながら、こう切り出した。
「ユキちゃんには、大切な人はいますか?」
「……えっ!」
唐突すぎて、咄嗟に返事ができなかった。
大切な――と、ひと言で表現されるとしても、その性質はさまざま存在する。
どういう対象として大切なのか――。
友人なのか、同僚なのか、家族なのか、そして――。
どういう枠組みを想像するかは人それぞれだろう。けれど、ユキの場合、レジーナの質問に呼応するかのように、脳裏に浮かんできた人物がいた。
ハンス――。
大切な幼馴染――いや、それ以上の存在だ。
彼女の質問の答えを正しく示すなら、ここでハンスというべきだろう。しかしそれを口にする勇気は、ユキにはなかった。
結果的に、苦笑いを浮かべて口ごもることになった。
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