三章 『AL作戦』

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 逃げつつも、敵兵をいなしながら、さらに自走兵器に視線を送った。  その周辺では、自走兵器を変わらず攻撃する黒の軍服と、さらにそれを護衛する白の軍服がいくつか見えた。  発射前に破壊しようということか――?  しかし、そう上手くいくのだろうか。  目を凝らしてみる。そのパラディンの中に、ユキの姿を見つけた。いや、正確にいうなら、距離がありすぎて断定はできない。ただ、そう見える。  主砲の光が増した。発射の瞬間は近い――。  しかし、どうすることもできない。  ここで無理に近づいたところで、ユキを助けることにはならない。  どうするべきなのか?  アルディス軍の兵士の一人として。  ハンスという個人として。  そんな苦悩をする暇さえ、ほとんど与えられなかったといってもいい。自走兵器の主砲は、ついには目を背けなければならないほどの、まばゆい光を発した。  ハンスは咄嗟に、大地に向かって、うつ伏せの姿勢で飛び込んだ。  耳をつんざくような轟音が、あたり一面にこだました。これもまた、あの日に聞いたそれと同じだったのだろうが、そんな検証をしているほどの余裕はなかった。  すぐに強風が吹き荒れる。同時に熱気までもが伝わってきた。砂埃と瓦礫によって、視界のすべてが奪われた。  身体が持ち上げられる感覚と、何かが身体にぶつかる感触もあった。必死に身体を丸くして耐える。どこに衝撃がくるかもわからない。  防御魔法のおかげで、何とか事なきを得ただけだろう。何もなければそれだけで、命を失っていたかもしれない。  そうやってうつ伏せになってから、どれくらいが経過しただろうか。突風は止み、また熱さも消えていった。  ゆっくりと目を開くと、しかしまだ粉塵は巻き上げられてたままのようだった。目を守りながらも、あたりに視線を送って見る。  とにかく瓦礫の量が減っているのは確かだった。爆風で吹き飛ばされたのだろう。自分も吹き飛ばされているので、たしかではないが。
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