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「大丈夫か?」
無視もできず、声をかけた。
「ああ、問題ない」
どこかぞんざいな応答をされた。格下のナイト軍服だったからかもしれない。
意識はしっかりしている。大丈夫なようだ。本人がいうのだから、それ以上の深入りはしないことにした。
何より、ユキだ。
ハンスは走った。ゼノビア兵に遭遇した場合は――気絶させた。そして脚の腱を切った。
とりあえずの処置だ。そんな行動にすら、虚しさを感じてくる。どこか作業的に人間を傷つけている自分が、滑稽な存在のように思えてきた。
自分はいったい何者なのだ?
ここで何をしているのだ、と。
いや、自我を失っている場合ではない。優先順位を考えろ――。
今は、ユキだ。
茶色の世界を走り、何人ものブレイバーたちとすれ違った。無事である者、負傷してしまった者、そして命を奪われてしまった者まで――。
感傷に浸ってはならないと、自らに語りかけた。負傷者にはハンスにできるだけの応急手当を、死者は無視をした――。心の中でだけ、手のひらを合わせた。
そしてついに――ユキを見つけた。
瓦礫の中に埋もれるようにして、しかしその中で座るような体勢になっていたユキを、ハンスは見つけた。
身体が僅かに動いていた。意識を失ってはいないようだ。ただ、重いものに挟まれているのかもしれない――。
「ユキ!」
呼びかけながら、近づいていく。
「えっ……」
ユキは弾かれるように首を左右に動かした。そして、こちらを向いたところで止まった。
「――ハンス……?」
驚いた表情だった。同時に、その顔には疲労が滲み出てもいた。少なからずダメージを受けているのだろう。
まさかすぐそばにいたとは、想像もしていなかったようすだ。
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