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「無事か!?」
ユキにのしかかっていた、煉瓦を持ち上げる。かなり重い。これだけでも、相当なダメージがありそうだ。
ようやく、ユキの身体が自由になった。
ぱっと見たかぎりでは、外傷は見られなかった。
しかし身体に触れることは躊躇された。本人しかわからない傷を負っているかもしれない。
「とりあえず、大丈夫……だけど……」
ユキは、瓦礫の外に出ている自分の右足を、さするような仕草をした。
「ちょっと……怪我しちゃったみたい……」
「怪我――?」
その右足を今一度確認したが、やはり目立った傷はない。
というよりも、太股の途中までが灰色のニーソックスによって隠されているので、その内側が確認できなかっただけなのだが。
けれど、そのニーソックスは血液に染まっていないし、破損していないということは、ユキのいうように外傷を負ったわけではないのだろう。
ということは、内部の損傷だ。
「ひねったのか……。まさか、骨折じゃないよな?」
「それはたぶん……大丈夫。だけど、足を着いたりすると痛むから、たぶん筋肉か腱をやったんだと思う……」
ユキの表情は焦燥感に満ちていた。額からも汗が滲んでいる。その水分に砂埃とが張りついて、女の子らしくない汚れが顔中にできていた。
ユキが焦るのもそのはずで、内部組織の負傷は、専門的な治療魔法でないと癒すことができないからだ。
ハンスにはまず無理な話であり、魔法の扱いに優れているユキでさえ、おそらく回復させることはできない。
できるのは、専門の治療魔法部隊くらいだ。
となると、非常にまずい――。
もしもここで敵が現れたら――。
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