三章 『AL作戦』

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「ハンス。私のことはいいから、戦列に戻ってください! 今のタイミングが唯一の自走兵器の隙だから」 「……そうなんだけど。実はレヴォルツがな――」  亀裂が入ってしまって使用がままらないのだと、ユキにも説明した。それでもなお攻撃することもできるが――おそらく高い確率で足を引っ張ることになるだけだ。  戦力にならないのならまだしも、邪魔になったり迷惑になるのは避けたかった。命が惜しいのではなく、誰かの命を危険に晒すことは、避けなければならない。  ならば今は引くべきなのだ。負傷したユキを発見したのも、そのためだったのだと思えた。  これもまた、言い訳がましい言い分だが――。  ハンスはそれで、自分を納得させた。  その決断をさせた材料の中に、自走兵器への恐怖心が本当になかったのかといわれれば、ゼロだったとはいえない。自分の弱さは認める。  近距離武器であの巨体に挑むことの無謀さは理解しているつもりだ。それはある意味、無鉄砲でもあるのだ。  それで命を落とすなら、迷惑をかけるなら、戦地を味方に譲るという選択は間違いではない――はずだ。そう、間違いではない。  いや、そんなことはどうでもいいのだ。  今まさに目の前にいるユキの存在が、一番に決断を後押しさせていた。手負いのユキをこのままで放っておくという選択はできない。それが真実でありすべてだった。 「それなら離脱しましょう。もうすぐここはレジーナ様の戦場になるから」  ユキもそう判断した。 「レジーナ様? やっぱり神徒がここにも参戦するのか」  神徒が来てくれる――。  それだけで、胸の内にある重い呪縛が解かれたような気がした。 「別の街ではもう戦ってるよ……。一機はもう、処理が完了したみたい」 「一機?」 「自走兵器を一機」  それはアルディス軍の端くれとして、もっとも喜ぶべき情報だった。
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